かもめ通信さん
レビュアー:
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信仰も思想も、愛も友情も、権力も金も、何もかもが不確かで信じることが出来ないとしたら、人はなにをよりどころに生きていけば良いのだろう。
“生と死と信仰、血の絆、反乱や闘争。シリアの100年を語り尽くす”大河小説でもあり、“シリア版ロミオとジュリエット”と紹介されてきた長編小説がついに完結した。
全3巻のうち、1巻は、主として2つの家族の因縁を紹介してはいたものの、断片的に語られるそれぞれの物語は、年を追って語り起こされず、家系も人をも追っていないようだった。
続く2巻では、 細かい章立てがなされているのはあいかわらずではあるものの、およそ400ページほとんどすべてにわたって、若き日の著者を思わせるファリードと彼の仲間たちの幼年期から青年期にいたるまで様々な物語で埋め尽くされていた。
そうして迎えた第3巻、最終巻ともなればやはり、若き“ロミオ(=ファリード)とジュリエット(=ラナー)”をめぐるあれこれが語り尽くされるものだとばかり思い込んでいたのだが、これがまた気持ちよいぐらいあっさりと予想を裏切る。
共産主義者としてとらえられたファリードは収容所に送られる。
収容所の過酷な暮らしの中で支えになったのは学ぶことだった。
紙もペンもない中で口承でお互いの知識を分かち合う囚人たち。
紆余曲折を経て再び自由の身になったとき、ファリードは党と距離を置くようになっていたが、教師として働くうちに目の前の現実に突き動かされて、パレスチナ解放運動に携わる過激なグループに加わりもする。
やがてそうした活動とも袂を分かつことになるのだが、その間にもシリアでは幾度もの政変があり、昨日権力の座にいた者が今日は咎人となり、誰が味方か、いつ何時誰が敵になるかもわからず、人々は皆、ますます疑心暗鬼になっていく。
ラナーはラナーでファリードが収監されている間に逃げ場を失い、他の男との結婚を強いられ、やがてファリードを想う心以外のすべてを失う。
異国情緒たっぷりの不思議な雰囲気に包まれた1巻と、あふれ出る想い出に圧倒された2巻の後に続いていたのは、相変わらずの細かな章だてにもかかわらず、手に汗握る急展開だったのだ。
物語の最終盤、1巻の冒頭で語られたままポツンと置き去りにされていた殺人事件の真相が明らかになる。
ああそうか!と、ここまで来て本当にこの複雑な構成のすごさがわかった気がした。
パズルのピースもモザイクのかけらも誰かのさりげないひと言も、一瞬の出来事も偶然の出会いも何気ない一日も、一つとして無駄なものなく、一人として不必要な者はいない。
寄り道に思われた幾つものエピソードがぴたりと隙間を埋めるとき、そこにはなるべくしてなった“現実”が横たわっていた。
一組の若いカップルが愛だけを頼りに生きていく道を選んだが、多くの若者は今も彷徨い続けている。
それは決してかの国だけのことではなく、ひとつの物語の終わりは、すべての終わりを意味するものでもない。
一気に読むのがもったいなくて、少しずつ読み進めていた物語のエピローグにようやくたどり着いたとき、読み終わったばかりなのに、すぐにでももう一度最初から読み返したくなってしまった。
・愛の裏側は闇(1)
・愛の裏側は闇(2)
全3巻のうち、1巻は、主として2つの家族の因縁を紹介してはいたものの、断片的に語られるそれぞれの物語は、年を追って語り起こされず、家系も人をも追っていないようだった。
続く2巻では、 細かい章立てがなされているのはあいかわらずではあるものの、およそ400ページほとんどすべてにわたって、若き日の著者を思わせるファリードと彼の仲間たちの幼年期から青年期にいたるまで様々な物語で埋め尽くされていた。
そうして迎えた第3巻、最終巻ともなればやはり、若き“ロミオ(=ファリード)とジュリエット(=ラナー)”をめぐるあれこれが語り尽くされるものだとばかり思い込んでいたのだが、これがまた気持ちよいぐらいあっさりと予想を裏切る。
共産主義者としてとらえられたファリードは収容所に送られる。
収容所の過酷な暮らしの中で支えになったのは学ぶことだった。
紙もペンもない中で口承でお互いの知識を分かち合う囚人たち。
紆余曲折を経て再び自由の身になったとき、ファリードは党と距離を置くようになっていたが、教師として働くうちに目の前の現実に突き動かされて、パレスチナ解放運動に携わる過激なグループに加わりもする。
やがてそうした活動とも袂を分かつことになるのだが、その間にもシリアでは幾度もの政変があり、昨日権力の座にいた者が今日は咎人となり、誰が味方か、いつ何時誰が敵になるかもわからず、人々は皆、ますます疑心暗鬼になっていく。
ラナーはラナーでファリードが収監されている間に逃げ場を失い、他の男との結婚を強いられ、やがてファリードを想う心以外のすべてを失う。
異国情緒たっぷりの不思議な雰囲気に包まれた1巻と、あふれ出る想い出に圧倒された2巻の後に続いていたのは、相変わらずの細かな章だてにもかかわらず、手に汗握る急展開だったのだ。
物語の最終盤、1巻の冒頭で語られたままポツンと置き去りにされていた殺人事件の真相が明らかになる。
ああそうか!と、ここまで来て本当にこの複雑な構成のすごさがわかった気がした。
パズルのピースもモザイクのかけらも誰かのさりげないひと言も、一瞬の出来事も偶然の出会いも何気ない一日も、一つとして無駄なものなく、一人として不必要な者はいない。
寄り道に思われた幾つものエピソードがぴたりと隙間を埋めるとき、そこにはなるべくしてなった“現実”が横たわっていた。
一組の若いカップルが愛だけを頼りに生きていく道を選んだが、多くの若者は今も彷徨い続けている。
それは決してかの国だけのことではなく、ひとつの物語の終わりは、すべての終わりを意味するものでもない。
一気に読むのがもったいなくて、少しずつ読み進めていた物語のエピローグにようやくたどり着いたとき、読み終わったばかりなのに、すぐにでももう一度最初から読み返したくなってしまった。
・愛の裏側は闇(1)
・愛の裏側は闇(2)
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2014-11-19 07:22
2巻のレビューを読んで下さった訳者の酒寄先生からTwitterで↓のコメントをいただいたので、この最終巻のあとがきを読むのがまた楽しみだったのですが読んだら思わずおおっ!と声を上げてしまいましたww
https://twitter.com/kamometuusin/status/523244626103123968クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:384
- ISBN:9784488010348
- 発売日:2014年10月22日
- 価格:2700円
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