ぽんきちさん
レビュアー:
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気の毒なアカーキー・アカーキエウイッチと外套の物語。
ゴーゴリの代表作である短編。
主人公は貧相な小役人、アカーキー・アカーキエウイッチである。職務は文書係で、日がな一日文書を書き写している。安月給だが、何とかつましく暮らしてはいける。日々役所に通って仕事をし、粗末な夕食を取った後、夜なべ仕事にまた家に持ち帰った書類を書き写す毎日に、彼は満足していた。
ところがその淡々とした日常に1つの事件が起きる。いや、事件というのは大げさだが、彼の外套が古くなり、どうにもこうにも新調をしないわけにはいかなくなったのだ。ロシアの厳しい冬に、外套なしというわけにはいかない。だが、安月給から外套代を捻出するのは大変なことである。何とか苦心惨憺の末、彼は念願の新しい外套を手に入れる。
アカーキー・アカーキエウイッチはおよそヒーローとはかけ離れた人物である。風采も上がらなければ、他人にほめそやされるようなこともせず、判で押されたように同じ日々を送っている。
だが、ゴーゴリの筆にかかると、これが何だか愛おしい人物に思えてくる。アカーキー・アカーキエウイッチなんておかしな名前を付けられた経緯、同僚にからかわれても激高するでもない様子、文書を書き写すという自分の仕事にとても満足しているさま。あちらに寄り、こちらに寄りしながら、噛んで含めるように綴られる彼の日々のあれこれは、どこかロシア語の長い名前を聞くようで、どうとういうことはないのに何だか読み進めてしまうのだ。どこかユーモラスで、どこか懐かしい。
小人物ながら愛すべき人物、アカーキー・アカーキエウイッチ。
首尾よく外套を手に入れた彼を、しかし、不幸が襲う。
何たることか、新調したその日に、外套が追いはぎに奪われてしまう。意気消沈した彼は、あちこちに掛け合うが、最後に行った有力者の家で、その男にひどく怒鳴り付けられる。いきなり自分のところにつまらないことを持ち込まずに、しかるべき手順を踏め、というわけだ。有力者の冷たい仕打ちとあまりの剣幕にショックを受け、彼は倒れてしまう。
気の毒なアカーキー・アカーキエウイッチ。何と彼はそのまま命を落としてしまうのだ。
だが、この物語はここでは終わらない。さて、アカーキー・アカーキエウイッチと外套の物語がどうなったのか知りたい方は、どうぞ最後まで読んでみてほしい。それほど長い物語ではない。けれども何となく心に残り、あれこれと想像を掻き立てる、ちょっと不思議な手触りのお話だ。
*このお話を思い出したのは、ユーリ・ノルシュテインの未完の『外套』に関するドキュメンタリー映画が封切られるニュースを見たためです。かれこれ30年といいますから、すごいことですね。ドキュメンタリーもおもしろそうだけど、やはり完成した『外套』が見てみたいかな。
主人公は貧相な小役人、アカーキー・アカーキエウイッチである。職務は文書係で、日がな一日文書を書き写している。安月給だが、何とかつましく暮らしてはいける。日々役所に通って仕事をし、粗末な夕食を取った後、夜なべ仕事にまた家に持ち帰った書類を書き写す毎日に、彼は満足していた。
ところがその淡々とした日常に1つの事件が起きる。いや、事件というのは大げさだが、彼の外套が古くなり、どうにもこうにも新調をしないわけにはいかなくなったのだ。ロシアの厳しい冬に、外套なしというわけにはいかない。だが、安月給から外套代を捻出するのは大変なことである。何とか苦心惨憺の末、彼は念願の新しい外套を手に入れる。
アカーキー・アカーキエウイッチはおよそヒーローとはかけ離れた人物である。風采も上がらなければ、他人にほめそやされるようなこともせず、判で押されたように同じ日々を送っている。
だが、ゴーゴリの筆にかかると、これが何だか愛おしい人物に思えてくる。アカーキー・アカーキエウイッチなんておかしな名前を付けられた経緯、同僚にからかわれても激高するでもない様子、文書を書き写すという自分の仕事にとても満足しているさま。あちらに寄り、こちらに寄りしながら、噛んで含めるように綴られる彼の日々のあれこれは、どこかロシア語の長い名前を聞くようで、どうとういうことはないのに何だか読み進めてしまうのだ。どこかユーモラスで、どこか懐かしい。
小人物ながら愛すべき人物、アカーキー・アカーキエウイッチ。
首尾よく外套を手に入れた彼を、しかし、不幸が襲う。
何たることか、新調したその日に、外套が追いはぎに奪われてしまう。意気消沈した彼は、あちこちに掛け合うが、最後に行った有力者の家で、その男にひどく怒鳴り付けられる。いきなり自分のところにつまらないことを持ち込まずに、しかるべき手順を踏め、というわけだ。有力者の冷たい仕打ちとあまりの剣幕にショックを受け、彼は倒れてしまう。
気の毒なアカーキー・アカーキエウイッチ。何と彼はそのまま命を落としてしまうのだ。
だが、この物語はここでは終わらない。さて、アカーキー・アカーキエウイッチと外套の物語がどうなったのか知りたい方は、どうぞ最後まで読んでみてほしい。それほど長い物語ではない。けれども何となく心に残り、あれこれと想像を掻き立てる、ちょっと不思議な手触りのお話だ。
*このお話を思い出したのは、ユーリ・ノルシュテインの未完の『外套』に関するドキュメンタリー映画が封切られるニュースを見たためです。かれこれ30年といいますから、すごいことですね。ドキュメンタリーもおもしろそうだけど、やはり完成した『外套』が見てみたいかな。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:
- ページ数:33
- ISBN:B009KS6A3Y
- 発売日:2012年10月01日
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