書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

darklyさん
darkly
レビュアー:
大変面白い小説だが心には残らない。
不幸な生い立ちと幼少期の一時期を除き劣悪な生育環境に育った田中幸乃は、交際していた井上敬介から別れを告げられ敬介にストーカーした挙句、井上家が住んでいるアパートに放火し妻と二人の子供を焼死させた罪で死刑判決を受ける。幸乃は控訴せず死刑は確定する。

幸乃が幸せだったのは母親が再婚し新しい父と姉と暮らしていた時期だ。姉の陽子と佐々木慎一、丹下翔と共に過ごした日々は彼女にとって宝物であった。しかしその幸せな日々も幸乃の母が持病の発作で自動車事故死するまでであった。辛い日々の中、本を通じて友達となった小曾根理子の窃盗と傷害の罪を被った過去もあった。

慎一はその現場を目撃していたが自身が後ろ暗いことをしていたこともあり目撃者として申し出ることはなかった。しかし死刑判決が出た今、残虐非道な女とマスコミで報道される幸乃の本当の人となりを知っている慎一は無実を信じて動き始める。また翔も弁護士となり再審請求に向けて動き出す。しかし幸乃は無実を訴えるどころか刑が早く執行されることを望んでいるように思えた。

この手の話は切り口は様々ですがよくあるように思います。「13階段」のような冤罪物、「悪人」のように法と人道の矛盾、「半落ち」のように罪人の抱えた秘密、あるいは死刑制度自体を考えさせる社会物もあるでしょう。この小説はそのどれにも当てはまりません。

見方を変えれば、作者は何か作品を通じて訴えることがあるというよりは、色々な作品を研究し、典型的なパターンを外すように作品を創ったような、そのために幸乃の人物像を造り上げたような、妙な違和感を感じます。

幼少期から否定され続け「自分は生きる価値のない人間」「自分は人から必要とされない人間」と自己を否定し、理子には悲しむ両親がいるからという理由で罪を被るような人間が、別れを切り出された時「納得できない」と拒絶し、敬介を執拗に追い回すストーカーになるという展開はちょっと納得しにくい。しかしプロットの整合性を取るためには幸乃をそのような人物に設定するしかありません。

この小説は日本推理作家協会賞を取ったようです。面白く、幸乃の人物像の違和感を除けばよくできた話であり賞を取ったのも頷けますが私には刺さりませんでした。WOWOWのドラマでは幸乃の役は竹内結子でした。竹内結子が「自分は人から必要とされない人間」と言うなら「そんなことない!私で良ければ」と今すぐにでも家族を捨てて駆けつけるのですが。

お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

読んで楽しい:5票
素晴らしい洞察:1票
参考になる:29票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『イノセント・デイズ』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ