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Wings to fly
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おなじみの怪物もロックを愛する蛾男も。モンスターの姿を借りて描かれる人間的なあれこれが、心にさざ波をたてるアンソロジー。
表紙の怪物たちがとってもチャーミングな、モンスター・アンソロジーである。吸血鬼やゾンビなどお馴染みさんたち、悲しき女性ゴリラや勤勉な泥人間なども登場する短編小説と、ロックンロールにハマった蛾男の漫画を入れて全部で16篇。モンスターと言っても、主役を担う面々の大半は人間だ。

「進んで作り事を、その向こうにあるものを見ようという意志。必要なのはそれだけです。」
と、編者は序文の中に記している。
「その向こうにあるもの」とは、モンスターの姿を借りて描かれる人間的な何かであろう。

書き手が薄闇に繰る松明の火は、心に棲む異形や、人を怪物に変えてしまう経験、居場所のない孤独感を浮かび上がらせる。モンスターであることの、深い悲しみに心をえぐられたりもする。
では、特に印象的だった作品をご紹介しよう。

「ゴリラ・ガール」(ボニー・ジョー・キャンベル作)
少女は幼い頃から、激しく暴力的な衝動を抑えることが出来ない。彼女のやることなすことに母は悲鳴を上げ、あるいは泣き伏す。美しい容姿の中には、鎖に繋がれ歯をむき出して吠え、外に出ようと体当たりする生き物がいる。見世物小屋の中で変身してみせる数秒だけが、彼女の救いだ。本当の姿が他者に受け入れられないのは、こんなにも苦しい。己を偽ろうとしないゴリラ・ガールよ、貴女の強靭な心の持ちようは清新で瑞々しい。

「クリーチャー・フィーチャー」(ジョン・マクナリー作)
シカゴのアパートに住む少年は、もうすぐ妹か弟が生まれるよって言われても馬耳東風。だってそれ、モンスターには関係ない話でしょ。“ポケモン好き男子あるある”みたいな展開に微笑んでしまう。君の半分はまだ、子どもだけしか見えない世界に生きているのさ。近所の大人たちの事も、幼い初恋も、妹誕生のニュースに大喜びでフランケンシュタイン博士のセリフを叫んだことも、大人になった君はどんな気持ちで思い出すのだろう。なんだか懐かしくて可笑しくて、ものすごく温かい。

最後にひとこと。ビートルズやストーンズの時代をご存じのロックファンの皆さんは、漫画の蛾男の幸せを心から願いたくなるはずだ。粒ぞろいの逸品を、どうぞお楽しみください。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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