ぽんきちさん
レビュアー:
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街を、人を焼き尽くした紅蓮の炎
ドイツと第二次大戦といえば、誰しもすぐに思い出すのはナチスの戦争犯罪だろう。
だが、戦争とは相手があってするものである。ドイツが一方的に攻撃側だったわけではもちろんなく、連合国側も相応の攻撃を行い、その勢いが勝っていたがゆえに勝利を収めたわけである。
本書は、ドイツ国内の都市が爆撃された記録を網羅的にまとめたものである。著者はドイツ人歴史家・ジャーナリストであり、ナチスの戦争犯罪に関する著書も多い。
ナチスの負の歴史を背負ったドイツでは、自国が受けた被害を声高に語ることが、ある意味でタブー視されてきた。そうした流れもあって、ドイツ全土に渡る民間人対象の爆撃に関してまとめられた本は、本書以前にはほぼなかった。ドレスデン爆撃(*カート・ヴォネガット・ジュニアの『スローターハウス5』はこの爆撃を題材としている)は比較的よく知られているが、爆撃を受けたのはドレスデンだけではない。リューベック、シュテッティン、ダンツィヒ、ケーニヒスベルグ、ハノーファー、ブレーメン、ヒルデスハイム、ゾースト、ボン、クレーフェルト、ケルン、マインツ、トリーア、アウグスブルグ、ミュンヘン、ライプツィヒ、ベルリン、その他、挙げきれないほど多くの市町村。北部、西部、東部、南部。大都市、小村、商業地域、軍事地区、工業地域、歴史ある街。至る所に爆撃があり、多くの人が命を落とし、建物は瓦礫と化し、書籍や絵画・文化財が灰となった。
ドイツの劣勢が明らかになった後でも、各地への爆撃は続き、地図上をしらみつぶしにチェックしていくかのように、軍事的な戦略とはもはや関係のない、民間人相手の攻撃が続いたという。
20世紀の戦争は、空爆というそれまでになかった攻撃形態を生んだ。地上の肉弾戦と異なり、爆撃機から爆弾を落とすことで、成功すれば自国の戦闘員は被害を受けることなく、地上に多大な打撃を与えることが可能となった。ドイツに落とされた爆弾は、地上の建物や家具を燃料として燃え広がるよう、研究を重ねられたものだった。爆撃による火災は、ときに火災嵐を起こした。火災嵐とは、大火災で空気が高温に熱せられて垂直に吹き上がり、地表付近が真空に近い状態となって水平方向の強風が起こり、それがさらに火災を煽る現象を指す。ドイツではブンカーと呼ばれる堅固な防空壕が地下にも多く作られた。爆撃だけならブンカーに避難してやり過ごしたあと、脱出すればよかった。だが、ひとたび火災嵐が起こると、ブンカー内自体が高温になり、避難したまま窒息したり、熱やガスで多くの人が死亡することになった。ドレスデンのように、互いに避難できるようにブンカー同士をつないでいたような場合、そうした通路が火の通り道となり、内部がすべて焼き尽くされることもあった。
爆撃手側とて、民間人に対して敵意を持っていたわけではない。爆撃手の多くは、軍事施設を攻撃すると思っていた。住宅地を爆撃すると知り、疑問を抱いたとしても、軍の指令に反することは難しかった。
いずれにしろ、ひとたび爆弾を落とせば、地上は地獄となった。
本書では、多くの街の数値的な記録や証言を集め、爆撃下の街で何が起こったかを再構成している。本文460ページ、2段組でボリューム自体も相当だが、内容も相当ハードである。
つくづく、正義のための戦争など嘘だと思う。
法は、こうした市民相手の爆撃を裁く術を持たない。特に、戦勝者側の空爆が、戦争犯罪として裁かれたことはない。
これが違法でないなどということがあってよいのか、と茫然とする。
都市に対しての壊滅的打撃は、被害者が何人であったのかすら覆い隠す。
21世紀の戦争は、20世紀の戦争より破壊的になることは確かだろう。
戦争犯罪をなくすためには、戦争自体をなくすしか道はないのではないか。
重いが目を見開かされる1冊である。
だが、戦争とは相手があってするものである。ドイツが一方的に攻撃側だったわけではもちろんなく、連合国側も相応の攻撃を行い、その勢いが勝っていたがゆえに勝利を収めたわけである。
本書は、ドイツ国内の都市が爆撃された記録を網羅的にまとめたものである。著者はドイツ人歴史家・ジャーナリストであり、ナチスの戦争犯罪に関する著書も多い。
ナチスの負の歴史を背負ったドイツでは、自国が受けた被害を声高に語ることが、ある意味でタブー視されてきた。そうした流れもあって、ドイツ全土に渡る民間人対象の爆撃に関してまとめられた本は、本書以前にはほぼなかった。ドレスデン爆撃(*カート・ヴォネガット・ジュニアの『スローターハウス5』はこの爆撃を題材としている)は比較的よく知られているが、爆撃を受けたのはドレスデンだけではない。リューベック、シュテッティン、ダンツィヒ、ケーニヒスベルグ、ハノーファー、ブレーメン、ヒルデスハイム、ゾースト、ボン、クレーフェルト、ケルン、マインツ、トリーア、アウグスブルグ、ミュンヘン、ライプツィヒ、ベルリン、その他、挙げきれないほど多くの市町村。北部、西部、東部、南部。大都市、小村、商業地域、軍事地区、工業地域、歴史ある街。至る所に爆撃があり、多くの人が命を落とし、建物は瓦礫と化し、書籍や絵画・文化財が灰となった。
ドイツの劣勢が明らかになった後でも、各地への爆撃は続き、地図上をしらみつぶしにチェックしていくかのように、軍事的な戦略とはもはや関係のない、民間人相手の攻撃が続いたという。
20世紀の戦争は、空爆というそれまでになかった攻撃形態を生んだ。地上の肉弾戦と異なり、爆撃機から爆弾を落とすことで、成功すれば自国の戦闘員は被害を受けることなく、地上に多大な打撃を与えることが可能となった。ドイツに落とされた爆弾は、地上の建物や家具を燃料として燃え広がるよう、研究を重ねられたものだった。爆撃による火災は、ときに火災嵐を起こした。火災嵐とは、大火災で空気が高温に熱せられて垂直に吹き上がり、地表付近が真空に近い状態となって水平方向の強風が起こり、それがさらに火災を煽る現象を指す。ドイツではブンカーと呼ばれる堅固な防空壕が地下にも多く作られた。爆撃だけならブンカーに避難してやり過ごしたあと、脱出すればよかった。だが、ひとたび火災嵐が起こると、ブンカー内自体が高温になり、避難したまま窒息したり、熱やガスで多くの人が死亡することになった。ドレスデンのように、互いに避難できるようにブンカー同士をつないでいたような場合、そうした通路が火の通り道となり、内部がすべて焼き尽くされることもあった。
爆撃手側とて、民間人に対して敵意を持っていたわけではない。爆撃手の多くは、軍事施設を攻撃すると思っていた。住宅地を爆撃すると知り、疑問を抱いたとしても、軍の指令に反することは難しかった。
いずれにしろ、ひとたび爆弾を落とせば、地上は地獄となった。
本書では、多くの街の数値的な記録や証言を集め、爆撃下の街で何が起こったかを再構成している。本文460ページ、2段組でボリューム自体も相当だが、内容も相当ハードである。
つくづく、正義のための戦争など嘘だと思う。
法は、こうした市民相手の爆撃を裁く術を持たない。特に、戦勝者側の空爆が、戦争犯罪として裁かれたことはない。
これが違法でないなどということがあってよいのか、と茫然とする。
都市に対しての壊滅的打撃は、被害者が何人であったのかすら覆い隠す。
21世紀の戦争は、20世紀の戦争より破壊的になることは確かだろう。
戦争犯罪をなくすためには、戦争自体をなくすしか道はないのではないか。
重いが目を見開かされる1冊である。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:みすず書房
- ページ数:520
- ISBN:9784622075516
- 発売日:2011年02月22日
- 価格:7128円
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