ぽんきちさん
レビュアー:
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戦火を逃れ、家族は進む。動物園の子ゾウとともに。
戦時中のドイツ・ドレスデンでかつて起きた出来事を語る、子どものための本です。
看護師の「わたし」はお年寄りの介護施設で働いています。そこで知り合った82歳のリジーは、少し気むずかしいところもありますが、「わたし」とはどこか気が合う、凛としたおばあさんです。
「わたし」は、週末、息子のカールの預け先が見つからず、職場である施設に連れてくることになります。リジーはカールをとても気に入り、昔、「庭でゾウを飼っていた」話をしてくれると言います。
リジーが呆けておかしなことを言っていると思っていた「わたし」ですが、カールはリジーを信じます。徐々に、二人の真剣さにつられ、「わたし」はリジーの話を信じ始めます。
そしてリジーは、「あの頃」のことを語り始めるのです。
戦争に行ってしまったパピ(父親)、動物園で飼育係として働くムティ(母親)、足が悪く、喘息持ちの弟、カーリ、そして当時はエリーザベトと呼ばれていたリジーは、ドレスデンに暮らす家族でした。
ムティは、担当する子ゾウのマレーネをとても可愛がっていました。ある日、ムティは、夜になると怯えるマレーネを家に連れ帰るようになります。
1945年2月13日、リジーの街、ドレスデンは恐ろしい運命を迎えます。街から逃げ出した一家は、子ゾウを連れて、長く苦しい逃避行を行うことになります。その途で出会ったペーターは、撃ち落とされた敵軍爆撃機の兵士でした。一度はペーターを殺そうとしたムティでしたが、不注意のために死にかけたカーリが、ペーターに命を救われたことから、彼に心を開いていきます。結局は皆は、ペーターの方位磁石を頼りに、ともに旅を続けることになります。
リジーは、ハイティーンで難しい年頃です。世の中に苛立ち、母ムティともぶつかります。家族や親戚も欠点がまったくない人々であるようには描かれません。ムティと姉妹のロッティ叔母さんとの間で、国の方針について激しい議論が行われたりもします。
逃避行の中で、いがみ合う人も助け合う人もいます。同国人でも敵対することもあれば、敵国人と助け合うこともあります。
作者のモーパーゴは、そうしたさまを思春期の女の子のみずみずしい感性を通して描いていきます。
全編を通じて浮かび上がってくるのは、戦争の中で、一方を悪者に仕立て上げるのではなく、戦争そのものが「悪」であるとする作者の姿勢です。
かわいい子ゾウ・マレーネは、お話の中で、子どもたちを和ませ、人と人との垣根を取り払います。そしてまた、お話を読む人にとっても、優れた導き手として、物語の最後まで連れて行ってくれるのです。
後半以降の展開はいささか「うまく」行き過ぎているようにも感じます。このお話を、どこか、おとぎ話めいたものにしてしまったようにも感じます。
しかし、これはある意味、作者が子どもたちに捧げる「祈り」のようなものなのかもしれません。
私たちは、互いの衝突を克服できるはずだ。私たちの心の中には、ペーターが持っていた方位磁石のように、正しい方向へと導くものがあるはずだ、と。
イギリスの作家として、英米軍がドイツを爆撃したエピソードを「敢えて」選んだ作者が、子どもたちに託す「希望」、それがこの明るい結末なのだとも思えてきます。
リジーは最後に、カールに方位磁石を託します。
この物語もまた、作者から子どもたちに贈られた、方位磁石であるのでしょう。
*対ドイツ空爆については、いずれまた別の本(ノンフィクション)を読んでみたいと思っています。
*動物園のゾウに関しては、モデルがいたようです。(*リンク先、英語です)
Belfast Telegraph
ドレスデンではなく、ベルファストですが、戦時中、動物園で飼育を担当していたゾウを毎夜、自分の家に連れ帰っていた女性飼育員がいたとのこと。この話を知った作者は強いインスピレーションを得たようです。
看護師の「わたし」はお年寄りの介護施設で働いています。そこで知り合った82歳のリジーは、少し気むずかしいところもありますが、「わたし」とはどこか気が合う、凛としたおばあさんです。
「わたし」は、週末、息子のカールの預け先が見つからず、職場である施設に連れてくることになります。リジーはカールをとても気に入り、昔、「庭でゾウを飼っていた」話をしてくれると言います。
リジーが呆けておかしなことを言っていると思っていた「わたし」ですが、カールはリジーを信じます。徐々に、二人の真剣さにつられ、「わたし」はリジーの話を信じ始めます。
そしてリジーは、「あの頃」のことを語り始めるのです。
戦争に行ってしまったパピ(父親)、動物園で飼育係として働くムティ(母親)、足が悪く、喘息持ちの弟、カーリ、そして当時はエリーザベトと呼ばれていたリジーは、ドレスデンに暮らす家族でした。
ムティは、担当する子ゾウのマレーネをとても可愛がっていました。ある日、ムティは、夜になると怯えるマレーネを家に連れ帰るようになります。
1945年2月13日、リジーの街、ドレスデンは恐ろしい運命を迎えます。街から逃げ出した一家は、子ゾウを連れて、長く苦しい逃避行を行うことになります。その途で出会ったペーターは、撃ち落とされた敵軍爆撃機の兵士でした。一度はペーターを殺そうとしたムティでしたが、不注意のために死にかけたカーリが、ペーターに命を救われたことから、彼に心を開いていきます。結局は皆は、ペーターの方位磁石を頼りに、ともに旅を続けることになります。
リジーは、ハイティーンで難しい年頃です。世の中に苛立ち、母ムティともぶつかります。家族や親戚も欠点がまったくない人々であるようには描かれません。ムティと姉妹のロッティ叔母さんとの間で、国の方針について激しい議論が行われたりもします。
逃避行の中で、いがみ合う人も助け合う人もいます。同国人でも敵対することもあれば、敵国人と助け合うこともあります。
作者のモーパーゴは、そうしたさまを思春期の女の子のみずみずしい感性を通して描いていきます。
全編を通じて浮かび上がってくるのは、戦争の中で、一方を悪者に仕立て上げるのではなく、戦争そのものが「悪」であるとする作者の姿勢です。
かわいい子ゾウ・マレーネは、お話の中で、子どもたちを和ませ、人と人との垣根を取り払います。そしてまた、お話を読む人にとっても、優れた導き手として、物語の最後まで連れて行ってくれるのです。
後半以降の展開はいささか「うまく」行き過ぎているようにも感じます。このお話を、どこか、おとぎ話めいたものにしてしまったようにも感じます。
しかし、これはある意味、作者が子どもたちに捧げる「祈り」のようなものなのかもしれません。
私たちは、互いの衝突を克服できるはずだ。私たちの心の中には、ペーターが持っていた方位磁石のように、正しい方向へと導くものがあるはずだ、と。
イギリスの作家として、英米軍がドイツを爆撃したエピソードを「敢えて」選んだ作者が、子どもたちに託す「希望」、それがこの明るい結末なのだとも思えてきます。
リジーは最後に、カールに方位磁石を託します。
この物語もまた、作者から子どもたちに贈られた、方位磁石であるのでしょう。
*対ドイツ空爆については、いずれまた別の本(ノンフィクション)を読んでみたいと思っています。
*動物園のゾウに関しては、モデルがいたようです。(*リンク先、英語です)
Belfast Telegraph
ドレスデンではなく、ベルファストですが、戦時中、動物園で飼育を担当していたゾウを毎夜、自分の家に連れ帰っていた女性飼育員がいたとのこと。この話を知った作者は強いインスピレーションを得たようです。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
この書評へのコメント
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:徳間書店
- ページ数:205
- ISBN:9784198637279
- 発売日:2013年12月01日
- 価格:1620円
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