かもめ通信さん
レビュアー:
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“ハチャメチャ老人の笑撃・爆弾コメディ”と銘打たれてはいたけれど、私はこれ、非常にシニカルな“歴史物”として楽しんだ。
自他共に認める(?)ロウジンスキーの私としては
chiezoさんのレビューを見過ごすことはできなかった!
なんといっても主人公が100歳のおじいさんだというのだ。
おまけにその100歳、
長寿を祝う誕生日の式典の当日に
老人ホームの窓から“おしっこ履き”のまま逃げ出したというではないか!
期待に胸を膨らませながらページをめくり
100歳のアラン老が着の身着のまま、窓から逃げだして、
ひょんなことから柄の悪い兄ちゃんのスーツケースを持ち逃げする
出だしはなかなか好調で
この分だと波に乗って400ページほどの分量も一気に読めてしまうかな~と
思ったのは甘かった。
実はこの本、老人の逃避行の「今」と並行して語られる彼の歩んだ100年から、
世界の歴史がのぞけるという趣向なのだが、
見様見真似で身につけた爆弾の専門家としての知識を活かして
その土地の言葉を身体で覚えて
行き当たりばったりに世界各国を渡り歩き
激動の20世紀を体感するこの人物、
とにもかくにも“政治と宗教”の話が大嫌いな御仁で
スペイン内戦に首をつっこんで人民戦線の側に立って
あちこち爆破したと思えば、
それと知らずにフランコ将軍の命を救って
意気投合し簡単に鞍替えしてしまうという具合。
その節操のなさが
100歳になった“今”の騒動にも如実に表れているようで
なんだかむかむかしてしまって途中で放り出したくなってしまったのだ。
これはコメディ、パロディなのだから
もうちょっと進めばまた違った展開も……と我慢しながら読み進めると
1/4ぐらい進んだところで、さっと視界が開けてきた。
場面はアメリカ、原爆開発の研究所だ。
開発の“成功”まであともう一歩というところで行き詰まっていた研究者達に
コーヒーを給仕しながら若き日のアランが
思わず口にしたひと言がきっかけとなってついに原爆が完成、
ヒロシマ、ナガサキに原爆が投下されるというところ。
この場面をめぐっては、
日本の読者から「日本人として許せない」的な感想が寄せられているようではあるが、
私は全く逆の感想を抱いた。
当時の日本がファシスト国として認識されていたという背景や、
原爆開発にまつわる様々なプレッシャーはあるにしても
科学者達は“純粋に”研究の成功を求めていた。
そこには多くの命が失われることへの良心の呵責も、
人々を孫子の代まで苦しめることになることへの懸念もない。
そしてまた原爆投下を命じる政治家の方でも
自分の野心以外、頭に無いかのようだ。
そう戦争はいつだってこういう風に、
無慈悲に無節操に人の命をうばっていくものなのだ。
スペイン内戦で、アメリカで、中国で、イランで、ロシアで、北朝鮮で
アランが接することになる政治家達がいかに酷い連中なのか
そしてまたイデオロギーの違いをこえて、いかに愚かしい存在であることか!
アラン老の人生と共の振り返る100年が
馬鹿馬鹿しいほどのエピソードの積み重ねであることに愕然とする。
もちろんこれはコメディで、デフォルメされていることは間違いないが
北欧というなかなか微妙な立ち位置から
第二次世界大戦と東西冷戦時代をじっくり見つめるひとつのシニカルな世界観として
非常に興味深く読むことができた。
ゲラゲラと笑い飛ばすのも一興!
あれこれとこねくり回して20世紀を振り返ってみるのもまた一興!
さてあなたはこの本をどう読むか?
そんなところにも興味をもった。
chiezoさんのレビューを見過ごすことはできなかった!
なんといっても主人公が100歳のおじいさんだというのだ。
おまけにその100歳、
長寿を祝う誕生日の式典の当日に
老人ホームの窓から“おしっこ履き”のまま逃げ出したというではないか!
期待に胸を膨らませながらページをめくり
100歳のアラン老が着の身着のまま、窓から逃げだして、
ひょんなことから柄の悪い兄ちゃんのスーツケースを持ち逃げする
出だしはなかなか好調で
この分だと波に乗って400ページほどの分量も一気に読めてしまうかな~と
思ったのは甘かった。
実はこの本、老人の逃避行の「今」と並行して語られる彼の歩んだ100年から、
世界の歴史がのぞけるという趣向なのだが、
見様見真似で身につけた爆弾の専門家としての知識を活かして
その土地の言葉を身体で覚えて
行き当たりばったりに世界各国を渡り歩き
激動の20世紀を体感するこの人物、
とにもかくにも“政治と宗教”の話が大嫌いな御仁で
スペイン内戦に首をつっこんで人民戦線の側に立って
あちこち爆破したと思えば、
それと知らずにフランコ将軍の命を救って
意気投合し簡単に鞍替えしてしまうという具合。
その節操のなさが
100歳になった“今”の騒動にも如実に表れているようで
なんだかむかむかしてしまって途中で放り出したくなってしまったのだ。
これはコメディ、パロディなのだから
もうちょっと進めばまた違った展開も……と我慢しながら読み進めると
1/4ぐらい進んだところで、さっと視界が開けてきた。
場面はアメリカ、原爆開発の研究所だ。
開発の“成功”まであともう一歩というところで行き詰まっていた研究者達に
コーヒーを給仕しながら若き日のアランが
思わず口にしたひと言がきっかけとなってついに原爆が完成、
ヒロシマ、ナガサキに原爆が投下されるというところ。
この場面をめぐっては、
日本の読者から「日本人として許せない」的な感想が寄せられているようではあるが、
私は全く逆の感想を抱いた。
当時の日本がファシスト国として認識されていたという背景や、
原爆開発にまつわる様々なプレッシャーはあるにしても
科学者達は“純粋に”研究の成功を求めていた。
そこには多くの命が失われることへの良心の呵責も、
人々を孫子の代まで苦しめることになることへの懸念もない。
そしてまた原爆投下を命じる政治家の方でも
自分の野心以外、頭に無いかのようだ。
そう戦争はいつだってこういう風に、
無慈悲に無節操に人の命をうばっていくものなのだ。
スペイン内戦で、アメリカで、中国で、イランで、ロシアで、北朝鮮で
アランが接することになる政治家達がいかに酷い連中なのか
そしてまたイデオロギーの違いをこえて、いかに愚かしい存在であることか!
アラン老の人生と共の振り返る100年が
馬鹿馬鹿しいほどのエピソードの積み重ねであることに愕然とする。
もちろんこれはコメディで、デフォルメされていることは間違いないが
北欧というなかなか微妙な立ち位置から
第二次世界大戦と東西冷戦時代をじっくり見つめるひとつのシニカルな世界観として
非常に興味深く読むことができた。
ゲラゲラと笑い飛ばすのも一興!
あれこれとこねくり回して20世紀を振り返ってみるのもまた一興!
さてあなたはこの本をどう読むか?
そんなところにも興味をもった。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:西村書店
- ページ数:413
- ISBN:9784890137060
- 発売日:2014年06月24日
- 価格:1620円
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