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efさん
ef
レビュアー:
華麗なる推理のアクロバット! 本格ミステリの精髄をご堪能あれ
 私は既にエラリー・クイーンの全著作を読了し、それらについてこちらでも全レビュー済なので、またクイーンを読み直し、新たにレビューを書こうとしても前のレビューを上書きしてしまうことになるのでそれはためらわれるところです。
 しかし、本というものは読んだ時々によってその感想や評価は変わる物。また今まで読めていなかったところが読めたり、以前とは異なる読み方をすることも度々経験するところです。
 ですから、再読というのは非常に重要で意味があることだし、時を置いて同じ本についてレビューを書くことも意義深いと常々思っているのであります。

 こちらではそれはできないのですが、版違いの本があればできる!
 ということで、私が大好きなクイーンの版違い本を使って再度その作品を読み直し、『今』の私の読みをもとにレビューしてみようと考え、まず手に取ったのが本書であります。

 本作は、エラリー(作者と主人公が同名なので、このレビューでは作者をクイーン、作中の主人公をエラリーと区別して書くことにします)の最も初期の事件であります。
 作品としては国名シリーズの一つで、出版されたのは4番目。しかし作中の設定としてはエラリーはまだ大学を出たばかりということで最初期の事件と設定されています。

 盲目の美術商ハルキスが亡くなり、その葬儀が行われたのですが、遺言状はつい最近書き換えられたばかりでその内容は弁護士にも伏せられていました。弁護士は葬儀後に遺言を発表するため、その内容は見ずにハルキス邸の壁の金庫にしまったのです。弁護士は葬儀開始の5分前に遺言状があることを確認しています。
 その後、葬儀が行われ、参列者は全員屋敷に戻って来ました。そこで遺言状を発表しようとしたところ……無い! わずかの時間に消えてなくなってしまったのです。
 直ちに警察が呼ばれ、葬儀参列者全員の身体検査、屋敷内の捜索が実施されたのですが、遺言状はどこにもありませんでした。

 本作はこのような遺言状消失の謎から始まるミステリなのですが、この謎については早々にエラリーが答を弾き出します。しかし、エラリーが指摘した場所からは遺言状は見つからず、その捜索過程で埋葬したばかりのハルキスの棺から、死体がもう一つ発見されてしまうのです。
 そしてもう一つの死体の身元は、つい先日刑務所を出所してきたばかりのグリムショーと判明します。

 また、グリムショーは、刑務所を出た後間もなく、顔を隠した謎の男とともにハルキスの屋敷を訪問していたことが明らかになります。
 本作は、グリムショーを殺したのは、そしてハルキスの棺の中にその死体を入れたのは誰か? 遺言状はどこに消えたのかという謎から始まるミステリなのですが、非常に精緻な推理が展開される極め付きのミステリになっています。

 エラリーはグリムショーが訪問した時に使われたティーセットだけから凄まじい推理を披歴するのですが、実はそれは犯人が仕込んだ虚偽証拠に基づく推理だったのです。当然エラリーの推理は的外れなものとなり、まだ若いエラリーは赤っ恥をかかせられます。
 そして、この犯人はエラリーの推理を逆手に取る非常に頭の切れる狡猾な奴だと思い知るのです。

 その後にも人が亡くなるのですが、警察は申し分ない状況証拠からこれは自殺だと断定します。しかし、一度煮え湯を飲まされているエラリーはそうそうたやすく信じようとはしません。
 ここでエラリーはある事実から再び絶妙な推理を展開するのです。
 さあ、エラリーの反撃だ!

 ということで、本作では二転、三転する真相とその度に展開される非常に精緻かつ巧妙な推理が醍醐味となっている本格ミステリの傑作と評価して良い作品だと思います。
 実は、私がクイーンを読み始めた頃、国名シリーズは好きでしたが、本作の評価はさほど高いものではありませんでした(なんだかややこしい作品に読めてしまったのです)。

 しかし、その後様々なミステリ評論を読むなどし、本作の神髄について学んでいったことから、本作は実に巧みに書かれている名作なんだということにようやく気付くことができた作品なのです。
 今回の読み直しでもその感想は変わるところはなく(いや、さらに評価が上がったかもしれません)、本作は本格ミステリの超一級品であり、クイーンの全作品の中でもトップクラスに素晴らしい作品であると再認識しました。

 本作を丹念に読んでいくと、エラリーはほんのささいな事実から堅牢な推理により驚愕の真実を暴き出すのですが、その手腕は見事と言うほかなく、また、作者のクイーンも推理に漏れがないように、非常に気を遣って穴を埋めていることがよく分かります。この精密さには舌を巻きます。
 この緻密な推理のアクロバットを読むだけでも本作は圧倒的な完成度を誇る珠玉の本格ミステリであると評価できます。

 また、本作は、私が他のレビューで何度も言及している、いわゆる『後期クイーン的問題』と呼ばれる、非常に難しいミステリ構造上の問題を生んだきっかけとなった作品でもあるのです。その意味でもミステリ史上重要な作品であり、未読のミステリファンには是非読んでいただきたい作品だと思います。
 ストロング・リコメンドの傑作本格ミステリです。


読了時間メーター
□□□     普通(1~2日あれば読める):606ページ/2024/12/16
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ef
ef さん本が好き!1級(書評数:4917 件)

幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!

読んで楽しい:7票
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この書評へのコメント

  1. ベック2025-01-21 06:37

    国名シリーズはほとんど読んだのですが、本作は二番目に好きな作品です(因みに一番はエジプトです)。とにかく本書は読み応え抜群の作品ですよね。しかも国名シリーズの中でも最長。エラリーの苦悩が忘れがたいです。

  2. ef2025-01-21 09:28

    エジプトも巧妙な推理ですよね。

  3. hacker2025-01-21 09:29

    ギリシャとエジプトは、国名シリーズの白眉ですよね。私も大好きです。

  4. ef2025-01-21 17:28

    次の再読候補はエジプトです。

  5. ベック2025-01-21 17:56

    でも、推理トリックというかミステリとしての構築美としてはオランダもいいなと思っています。フランスのラスト一行での犯人指摘もやられたって感じだし、シャムの山火事孤立のシチュエーションも捨てがたい。結局どれもおもろいんだな。

  6. ef2025-01-21 18:19

    私も、オランダとかローマも好きですよ。

  7. hacker2025-01-21 19:18

    私は、ギリシャとエジプトの次はシャムです。

  8. ef2025-01-21 20:14

    おぉ、山火事スペクタクル

  9. No Image

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