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darklyさん
darkly
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泥棒を主人公とした横山さんの小説では珍しい短編集。渋いという評価は可能ですが、カタルシスはあまりありません。
横山さんは好きな作家ですが、元々私は同じ作家を集中して読むという習慣がないため好きな作家でも歯抜けのように読んでいない作品があります。この「影踏み」も初めて読みました。

横山さんの小説と言えば、基本は警察小説で新聞記者出身ということで報道に関するものが多いと思いますが、この「影踏み」は泥棒を主人公にした連作短編集であり異色の設定であると思います。

物語の基本はミステリーでありますが、泥棒ならではの視点や一部の警察官や暴力団、同業者などアンダーグラウンドで蠢く人たちの間での掟を含む謂わば文化のようなものが盛り込まれ斬新な切り口が楽しめる短編集となっています。

主人公は「ノビカベ」と異名を持つ真壁修一。夜、人が寝静まった後に忍び込むことを得意とする泥棒カテゴリーを「シノビコミ」の言葉から「ノビ」を取り「ノビ師」と呼ぶ。ちなみに夕方から夜間を狙う空き巣を「宵空き」と呼ぶ。

真壁修一は高身長、泥棒になる前は司法試験合格も視野に入るほど頭脳明晰であり、身体能力も抜群であった。真壁には双子の弟啓二がいたが、啓二は窃盗で逮捕され、そのことが原因で精神のバランスを崩した母親が家に火をつけ母親と啓二そして父親も巻き添えとなる。そして真壁の人生は暗転し泥棒を稼業とするようになる。

啓二が死んでから真壁の頭の中には啓二が棲みついている。真壁は啓二と会話し存命中記憶力抜群であった啓二に目に入るものの記憶を頼っている。昔、真壁と啓二は同時に安西久子という女性を愛していたが久子は真壁を選んだ。現在真壁と久子は愛し合っていながらも啓二のこともありつかず離れずの関係である。

真壁と啓二のある意味コンビにより物事の真相を解明するのがメインストーリーであるならば、真壁と啓二そして両親、久子との関係がサイドストーリーとしてメインストーリーに絡み合っていきます。普通に考えれば真壁の頭の中の啓二との会話は真壁自身の自問自答なのですが、真壁自身はそうは思っていないことや啓二に対する複雑な思いが彼自身の行動にかなり影響を及ぼします。そしてそのことが物語全体に抑制された、言葉を換えればハードボイルドの味わいを付け加えます。

警察にも暴力団にもおもねず、泥棒稼業から足を洗って久子と一緒になることもなく、今日もターゲットとなる家を探し続ける孤高の泥棒、過去に苦しみ修行僧のように自分に厳しいという真壁はどこにも行けないまま短編集は終わります。昔真壁が啓二と遊んだ「影踏み」という題名の何か物悲しいイメージがジャケットと相俟って物語全体を覆います。

最近映画化されたようですが、キャストを見ると真壁が山崎まさよしで久子が尾野真千子のようです。ちょっとイメージと違うかも。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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