武藤吐夢さん
レビュアー:
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テンポの良い大阪弁と、子供目線から見る世界の不思議に戸惑った。色んなものを失ってきたのだなと実感させられます。
先日、西さん原作の< まく子 >という映画を見てきた。
思春期の少年の自己嫌悪とか、大人の男を穢れた存在のように見る子供独特の視線に驚きました。
女子を意識したとたん、男はこうなります。
ラスト近くで、夢精でパンツを汚した下半身丸出しの息子の前で、父親(草彅さん)が同じように下半身丸出しになり、「きもいやろ・・・」というシーンが今でも脳裏に残っています。大人は、きもいものだから、それで普通だから心配しなくていいという父親の愛情溢れる性教育でした。
この作品、< 円卓 >は、同級生の少し大人びた女の子の眼帯に憧れる9歳の少女琴子(こっこ)が主人公です。
僕も昔、眼帯に憧れた経験があります。弟のいらなくなった眼帯をマジックで黒く塗って「海賊ーーー」と言って、友達と公園でブランコの曲芸のりをしたのを覚えています。遠近感がないので、めっちゃ怖かった。まさくし恐れ知らず。
子供は、ああいう、ちょっとしたことで、自分が違った何かに変身したような気分になるのです。その子供のころに失った懐かしい感覚を冒頭から思い出させてもらいました。
こっこ(琴子)は、公団住宅に住んでいて8人家族です。祖父母、両親。そして、中学生の美人の3つ子の姉妹。みんな、年下でかわいい こっこ を可愛がっています。
食卓に、潰れた中華料理店で貰ってきた巨大な円卓がある。ここで、わいわいがやがやと食事をとるシーンが何かいいのです。
こっこは、ジャポニカ学習帳を持っていて、そこに秘密の書き込みをしています。
表紙は、蟻です。後に、3つ子の姉の一人が、刺繍の参考にと勝手に持ち出し騒動になります。
その表紙の蟻の触覚の先に、だれもあけることならぬと幼い字で書いてあります。
そこには大切な言葉が書いてあるのです。
こっこの友達に、ぽっさんという同級生の男子がいる。彼は、どもりです。この子がいい子です。
「あれやで、うちが弟や妹にやきもちやいてるんちゃうか、て思うなや。違うねん。うちは全然、そんなんやのうて、妹も弟も、いらんねん。嬉しないねん」p111
・・・と琴子は彼の前で心情を吐露します。
普通、大人の感覚だと諭します。「赤ちゃんはかわいいよ」とか「そういうのは我儘だよ」
でも、この親友は、僕たちが忘れていたような感覚で琴子と接します。
「う、嬉しなかったら、よ、喜ばんでも、ええ」
このセリフには痺れました。
みんなが喜んでいる時、自分も喜ばないと・・・
そういう強迫観念が彼にはないのが良い。大人になると、それに無意識に縛られて雁字搦めにされてしまう。
でも、この後、琴子は朴君という男子の不整脈を真似します。純粋に、かっこいいと思って、眼帯の時と同じ感覚です。この時は、ぽっさんは叱ります。
「ぼ、朴君の不整脈も。香田めぐみさんの、も、もらいものも、本人が、格好ええんやろ、て、思っとったら、え、ええけど、嫌や、い嫌やって、思てるんやったら、何もせんほうがええんと、違うか」P117
でも、そんなことはわからんという話しになります。
「そ、想像するしか、ないんや」
なるほど、子供なのにしっかりしていますね。
ジョン・レノンの世界か。ベトナム戦争を想像しろ。戦争の悲惨を想像しろ。不整脈で苦しんでいる友達を想像しろってことですね。深い。
ノートを失くし、母親の妊娠で引っ越すかもという不安定な中、夏休みに突入するのですが、琴子とぽっさんは、学校の兎の散歩を日課としていました。小屋を飼育係が掃除している中、兎の面倒を見ていたのです。
ぽっさんがいない日、琴子は、変態と出くわしてしまう。
「ご尊顔を踏んでくれはるのん」と近づいてきます。
琴子は、変態の顔を踏み、その鼻血を足裏に・・・。
ウサギ小屋に行くと、ぽっさんはいない。一人で兎を連れて・・・
P146 こっこは、一羽を無理矢理、自分の顔に乗せた。ウサギはさらに嫌がり、何度か、こっこの顔を引っ掻いたが、やがて諦めたのか、静かになった。
思春期の少女の奇行は、他にも書かれています。
「しね」という文字を紙に書き、それを机の中に無数に隠していたこっこの前の席の女の子です。
こっこは、それを誰にも言いません。
理由も聞かない。
ここが大人とは違うところ。
大人は理由を知りたがる。
追求し追いつめる。
情報収集、解析。それから判断というプロセスをとる。
子供は、そんな方法論は採用しない。
こっこたちは、新学期に登校してきた彼女の机の中に、無数の紙きれを入れておきました。
これがラストシーン。
それはこっこのノートに書かれてある。大切な宝物の言葉たち。
おもろいかたちの野菜、たこやき、こいカルピス、給食、あいこがつづく時間、みつご、円卓
それはこっこの好きな言葉たち・・・。
頭の中に、どっと、こっこが流れ込んできます。
ページ数:201
読書時間 4時間
読了日 3/24
思春期の少年の自己嫌悪とか、大人の男を穢れた存在のように見る子供独特の視線に驚きました。
女子を意識したとたん、男はこうなります。
ラスト近くで、夢精でパンツを汚した下半身丸出しの息子の前で、父親(草彅さん)が同じように下半身丸出しになり、「きもいやろ・・・」というシーンが今でも脳裏に残っています。大人は、きもいものだから、それで普通だから心配しなくていいという父親の愛情溢れる性教育でした。
この作品、< 円卓 >は、同級生の少し大人びた女の子の眼帯に憧れる9歳の少女琴子(こっこ)が主人公です。
僕も昔、眼帯に憧れた経験があります。弟のいらなくなった眼帯をマジックで黒く塗って「海賊ーーー」と言って、友達と公園でブランコの曲芸のりをしたのを覚えています。遠近感がないので、めっちゃ怖かった。まさくし恐れ知らず。
子供は、ああいう、ちょっとしたことで、自分が違った何かに変身したような気分になるのです。その子供のころに失った懐かしい感覚を冒頭から思い出させてもらいました。
こっこ(琴子)は、公団住宅に住んでいて8人家族です。祖父母、両親。そして、中学生の美人の3つ子の姉妹。みんな、年下でかわいい こっこ を可愛がっています。
食卓に、潰れた中華料理店で貰ってきた巨大な円卓がある。ここで、わいわいがやがやと食事をとるシーンが何かいいのです。
こっこは、ジャポニカ学習帳を持っていて、そこに秘密の書き込みをしています。
表紙は、蟻です。後に、3つ子の姉の一人が、刺繍の参考にと勝手に持ち出し騒動になります。
その表紙の蟻の触覚の先に、だれもあけることならぬと幼い字で書いてあります。
そこには大切な言葉が書いてあるのです。
こっこの友達に、ぽっさんという同級生の男子がいる。彼は、どもりです。この子がいい子です。
「あれやで、うちが弟や妹にやきもちやいてるんちゃうか、て思うなや。違うねん。うちは全然、そんなんやのうて、妹も弟も、いらんねん。嬉しないねん」p111
・・・と琴子は彼の前で心情を吐露します。
普通、大人の感覚だと諭します。「赤ちゃんはかわいいよ」とか「そういうのは我儘だよ」
でも、この親友は、僕たちが忘れていたような感覚で琴子と接します。
「う、嬉しなかったら、よ、喜ばんでも、ええ」
このセリフには痺れました。
みんなが喜んでいる時、自分も喜ばないと・・・
そういう強迫観念が彼にはないのが良い。大人になると、それに無意識に縛られて雁字搦めにされてしまう。
でも、この後、琴子は朴君という男子の不整脈を真似します。純粋に、かっこいいと思って、眼帯の時と同じ感覚です。この時は、ぽっさんは叱ります。
「ぼ、朴君の不整脈も。香田めぐみさんの、も、もらいものも、本人が、格好ええんやろ、て、思っとったら、え、ええけど、嫌や、い嫌やって、思てるんやったら、何もせんほうがええんと、違うか」P117
でも、そんなことはわからんという話しになります。
「そ、想像するしか、ないんや」
なるほど、子供なのにしっかりしていますね。
ジョン・レノンの世界か。ベトナム戦争を想像しろ。戦争の悲惨を想像しろ。不整脈で苦しんでいる友達を想像しろってことですね。深い。
ノートを失くし、母親の妊娠で引っ越すかもという不安定な中、夏休みに突入するのですが、琴子とぽっさんは、学校の兎の散歩を日課としていました。小屋を飼育係が掃除している中、兎の面倒を見ていたのです。
ぽっさんがいない日、琴子は、変態と出くわしてしまう。
「ご尊顔を踏んでくれはるのん」と近づいてきます。
琴子は、変態の顔を踏み、その鼻血を足裏に・・・。
ウサギ小屋に行くと、ぽっさんはいない。一人で兎を連れて・・・
P146 こっこは、一羽を無理矢理、自分の顔に乗せた。ウサギはさらに嫌がり、何度か、こっこの顔を引っ掻いたが、やがて諦めたのか、静かになった。
思春期の少女の奇行は、他にも書かれています。
「しね」という文字を紙に書き、それを机の中に無数に隠していたこっこの前の席の女の子です。
こっこは、それを誰にも言いません。
理由も聞かない。
ここが大人とは違うところ。
大人は理由を知りたがる。
追求し追いつめる。
情報収集、解析。それから判断というプロセスをとる。
子供は、そんな方法論は採用しない。
こっこたちは、新学期に登校してきた彼女の机の中に、無数の紙きれを入れておきました。
これがラストシーン。
それはこっこのノートに書かれてある。大切な宝物の言葉たち。
おもろいかたちの野菜、たこやき、こいカルピス、給食、あいこがつづく時間、みつご、円卓
それはこっこの好きな言葉たち・・・。
頭の中に、どっと、こっこが流れ込んできます。
ページ数:201
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よろしくお願いします。
昨年は雑な読みが多く数ばかりこなす感じでした。
2025年は丁寧にいきたいと思います。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:201
- ISBN:9784167861018
- 発売日:2013年10月10日
- 価格:494円
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