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三太郎さん
三太郎
レビュアー:
ー本当に素晴らしいところは、どんな地図にも載っていないーあるまぼろしの半島を訪ねる旅。
2003年に出された吉田さんの短編集。7篇の短篇が緩く関連しながら一つの組曲のような纏まりを感じさせる。

音楽作品に例えれば、古典派のソナタのような纏まりではなくて、ドビュッシーのピアノ曲集のような感じ。各曲はバラエティがあってかつ共通の雰囲気が統一感を出している。

最初の短篇は28歳になったユイが、既に亡くなっている伯母の思い出を語っている。叔母は独身の詩人だった。ユイが描く絵画を見た伯母はある男性のことを思い出していたが、彼女の口癖は「グッドバイ」。遺品を整理していたら、真っ白なビートルズのLPのアルバムが出てきた。ユイは父親のプレイヤーで再生してみたが、B面の最後の曲でかならずプレイヤーの針が飛んでしまい、どうしても終わりまでは聴けなかった。これは音楽でいえば第一主題になる。

二番目の短篇はホテルのクローク係を務める若い男性の話。彼は行きつけの本屋で「運命の女賭博師」という本を勧められ、読みふける。小説の主人公の名はジャネットだったが、今晩クロークに黒い毛皮のコートを忘れて行った客の名前もジャネットだった。これは間奏曲かな。

三番目は第一主題の変奏というところ。伯母さんの学生時代の話。彼女のバイト仲間のカリアゲの思い出と彼女が手のひらにメモをして日記に書くようになったきっかけが語られる。

四番目はある日本人の放浪の画家が、欧州の北の人気のない半島の海岸近くの別荘地を訪れる話。彼は伯母の元恋人だった。これは第二主題かな。そこには何でも売っているよろず屋が一軒だけある。

五番目は伯母の残した日記。ユイの父親は写真家で外国人だった。ユイは結局絵を止めて父と同じ写真の道に進んだ。今では父の母国語を自由に話せるようになっている。伯母は一人暮らしの者のために何でも売っている「森羅万象小売店」をだれか開いてくれないかと書いた。これも第一主題の変奏かな。

六番目は日本人の作家が欧州のある半島の避暑地を訪れる話。そこで沢山の絵を残していった日本人画家の話を聞く。図書館で見つけたその画家の画集のタイトルは「クロークルーム」だった。第二主題の変奏かな。間奏曲とも密かにつながっている。

最後の短篇は写真家になったユイが半島を訪れ、よろず屋の主人に出会う話。ユイの父親はこの地方の出身だった。ここで第一主題と第二主題がであう。

エピローグはふたたびクロークルームの話に戻る。放浪の画家が旅の途中で出会った男声合唱団の面々がホテルのクロークを訪れる。彼らは何処かへ行ってしまった元メンバーのポークパイハットをクロークに預けて行った。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:829 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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