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薄荷さん
薄荷
レビュアー:
心がささくれ立った時、この本を思い出そう。そこに帰れるなら、きっとまだ大丈夫。
家守綺譚の続きのお話ですが、村田エフェンディ滞土録の次に読んだ方がしっくりきます。
なかなか文庫になってくれないので我慢の限界を迎え、ほとぼり冷めた現在、図書館で借りてきました。

相変わらず、綿貫さんが素敵な人で・・・惚れないわけにはいきません。

前回同様、家と周囲の自然の中で静かに時を過ごす綿貫さん。
遠くから聞こえる美しい歌声を探し求めて彷徨ったり、
庭に出てきた大きな蝦蟇をゴローと2人でじーっと見守ったり、
お隣のおかみさんに言われて『百足封じ』のお札を寺へもらいに行ったり・・・。
本人的には日々筆耕に勤しみ、(自業自得とはいえ)雨の中まで郵便局へ足を運んで原稿を送ってきたりと頑張ってはいるけど、我々視点ではゆっくりのんびり。
けれど、ある日からゴローが帰ってこなくなり・・・2ヶ月も経ってしまったことに気付いた綿貫さんは不吉な思いに囚われ、知り合い各所から入手したゴロー目撃情報とひょんな事から知った『イワナが営む宿』のため、汽車に乗りこんだ!ついた先で野越え山越え、山里を抜け、綿貫さんはゴローの行方を尋ね歩いていく・・・。

そんな訳でゴローを探しにきたはずの綿貫さんですが、疎水縁を離れた先々でも不思議な出来事に出くわし、知り合った人(あるいは人ならざるもの)と、誠実に向き合います。
父が帰ってこないと嘆く河童の子を慰め、
遠くを見つめて意味が解らない事を語る老女にも、霧深い野原で出会った貧しくて学問の道が遠いと嘆く少女にも、等しく優しく励ます言葉を探す。
その真摯な姿勢と他者に心を砕く事を惜しまない思いやりこそが、高堂をはじめとして動植物に妖までもが引き寄せられていくのだと、本人が全然気づいてないところがこれまた素敵です。

中でも顕著にその根っから人の良さが現れていたのが、全然会ったこともない、見知らぬ少女の死を知ったときのお話。
身重の体で冷たい川での作業をしてしまったために死んでしまった17歳の少女を思って、どれほどその作業が大変だったか体験しながら、その哀れさに涙をこぼす綿貫さん。
友人と相部屋で泊まった宿の外に彼女の幽霊が出たと聞けば、「よかった。声をかけてやりたいと思っていたのだ」と幽霊に率先して会いに行こうとして、顔面蒼白の友人に「おい待て、相手は死人だぞ」と止められます。
そりゃそうです。普通、見知らぬ少女の幽霊がついてきた!と知ったら恐いし気持ち悪くて当たり前。
そんなカンジで友人はとんでもなく恐がるし、宿の内儀は一大事!とばかり、魔よけの樒で結界をはりにいってしまいます。
が、結局その幽霊が部屋まで出てきたもんだからショックで気絶した友人はおいといて(笑)、幽霊に優しい言葉をかけながら、可哀相に・・・とまた涙ぐむのです。

ちなみに、この気の毒な友人は『家守綺譚』で茸について語ったときに、ほんの一言だけ触れられた『菌類の研究をしている友人』=今回、名前付きで登場して大活躍の南川さん。
(実はこの人も色々あることが後半でチラッと判明します。彼の行く末がちょっと心配・・・)

ゴローはなかなか見つからず、綿貫さんは『ゴローに何もしてやらなかった』としきりに悔いるけれど、イワナがやってるお宿に泊まるという魅力的目標もある事ながら、僅かなゴロー目撃情報を頼りにわざわざ電車に乗ってやってきた遠い地で野を越え山を越え、足袋をボロボロにし、草履を泥だらけにして、ひたすら歩き続けて自分を探してくれたことが、どれほどゴローに報いていることか・・・。

それが伝わってくる、ラストが素晴らしい!
『あれっ!?ご主人じゃないですか!?こんなところまで迎えに来てくれたんですか~!?うわーい!』
なんて声が聞こえてきそうなゴローの笑顔と、尻尾パタパタパタ~ッ!!までが目に見えるようです。
物凄く幸せすぎて綿貫さん同様・・・泣きました。

穏やかで優しいけれどしっかりとした芯のある美しい言葉が、深く静かに心に沁みる物語です。
忙しさに追われて大切なものがわからなくなったとき、自分がやさぐれてるな~と思ったとき、なんかもう全部上手くいかないとき・・・とにかく心と体が疲れたときに、この本を処方いたしましょう。
ほんの100年ほど前の時間の流れに身を委ね、その大気と風と香りを堪能してください。
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薄荷
薄荷 さん本が好き!1級(書評数:512 件)

スマホを初めて買いました!その日に飛蚊症になりました(*´Д`)ついでにUSBメモリーが壊れて書きかけレビューが10個消えました・・・(T_T)

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この書評へのコメント

  1. Kurara2015-09-14 23:28

    薄荷さん♪
    あ~~この雰囲気、忘れかけていました!この冬読むという決意の2冊目w
    綿貫さんという文字だけで、なにかこう懐かしい人と再会したような気分になれます。
    はやく会いに行かなくちゃ。ソワソワ。

  2. 薄荷2015-09-15 00:24

    >Kuraraさん
    やっぱりこのシリーズは、イイですよねぇ・・・。
    久々に読んで酔いしれて、『家守』と『エフェンディ』も一気に再読してしまいました(笑)。
    さぁ!冬と言わず、今すぐにでも読みましょうvv
    綿貫さんも、ゴローも、Kuraraさんを待ってますよ~(^_^)/

  3. No Image

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