かもめ通信さん
レビュアー:
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「ああ、プルーストは読んだことがある、17歳の夏、キンテーロで」それが彼が彼女についた最初の嘘だった。
最後に彼女は死に、彼はひとり残される。だが実際、彼女が死ぬ前、エミリアが死ぬ何年も前から、彼はひとりきりだった。彼女の名はエミリアという、あるいはエミリアといった、そして彼の名はフリオ、かつれも今もそうだということにしよう。フリオとエミリア。最後にエミリアは死に、フリオは死なない。その他のことは文学だ。
こんな印象的な書き出しで始まる中篇は、詩人で小説家で批評家でもあるというチリ人作家によって書かれた第1作目の小説「盆栽」だ。
冒頭で結末が明かされているこの物語は、小説家志望の若者とその恋人の恋愛模様を描いてはいるが、いわゆるラテンアメリカ文学という言葉からイメージするそれとは異なっている。
フリオがエミリアについた最初の嘘は、マルセル・プルーストを読んだことがあるというものだった。
コミュニュケーションがうまくとれない孤独な若者たちのあれこれを描く中にも、そこここに文学ネタがちりばめてあり、なんだか妙に身近で懐かしいけだるさが漂っていて、郷愁をさそう。
続く「木々の私生活」は、ベロニカが絵画教室から戻ってきたときにに終るはずの小説だというのだが、彼女がなぜかなかなか戻らないのでつらつらと書き連ねられていく物語だ。
主人公フリアンは、大学で文学を教えるかたわら、小説を書く。
ベロニカという女性は彼の結婚相手で、その連れ子のダニエラと3人で暮らしている。
ベロニカの帰りが遅いときには、「木々の私生活」というお話をしてダニエラを寝かしつける。
主人公がそういった自分の足場を確かめるがごとく、これまでの記憶をたどって「イマココ!」と語っていたはずなのに、次第にそれがあるかもしれない未来へとつながっていき、立っているはずの今さえも、不確かなものになっていく……。
つかみどころのないようなその不確かさがなんだか妙に胸を詰まらせる物語だった。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2019-08-21 05:25
引き続きのんびり開催中です。
祝 #白水社 #エクスリブリス #創刊10周年 記念読書会
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- 出版社:白水社
- ページ数:210
- ISBN:9784560090299
- 発売日:2013年08月24日
- 価格:2100円
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