hackerさん
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「七瀬は、そっと咲子の心にさぐりをいれてみた。そして彼女の考えを読んだ。そこにあったものは、意識のがらくたであった」(本書収録『無風地帯』より)
筒井康隆が書いた、他人の心を読む超能力、テレパシーをもつ女性七瀬を主人公とする、三部作の1972年刊の第一作です。この後『七瀬ふたたび』(1975年)、『エディプスの恋人』(1977年)と続きます。超能力者が登場する日本のSFというと、小松左京が1964年から連載を開始した『エスパイ』がありますが、私がまず思い出すのは、白戸三平が1965年に発表した『大摩のガロ』シリーズの後半です。1964年に発表された前半では、気配を殺すのが神業に近い大摩のガロと呼ばれる忍者を、白戸三平の忍者漫画ではおなじみの四貫目が「やませの術」を使って倒すのですが、後半では大摩のガロはテレパシー(多心通)を使う忍者として復活します。当然ながら、あらゆる術の仕掛けが読まれてしまうため、倒すのは不可能にも思えるのですが、「言霊の術」によって最期を迎えます。この術のヒントは、本書の中でも言及のあるサトルの化け物の話からでしょうが、初読時の強烈な印象は、よく覚えています。
本書は、一ヵ所に長く留まっていると、自分の能力が知られてしまう恐れがあるため、あちこちを転々できる住み込みのお手伝いさんという職業を選んだ、高校を卒業したばかりの18歳の七瀬が住みこんだ家の家族模様を描いた7篇の連作短篇集です。ところが、なまじテレパシー能力があるばかりに、七瀬は相手の思考を感じ取ってしまいます。正確には、黙っていても感じ取れるわけではなく、「掛け金をはずす」という行為をする必要があるのですが、一度入りこんだ心の中は、その人物が移動して遠距離に行ったとしても、継続して感じとることができますし、近くにいると、逆に意識して「掛け金をかける」行為をしないと、相手の思考を感じてしまうほど、テレパシー能力は鋭いものがります。そうやって、住み込み先の人間たちの本性若しくは普段は隠された欲望、特に肉欲と物欲の激しさを七瀬はもろに感じてしまいます。また、語られている欲望が、あまりにもリアルなので、わが身を振り返って、慄然とするような描写が続きます。この辺は、筒井康隆らしいタッチがよく出ていると思います。
収録作で、特に印象的なのは、不潔という概念を失ったような十三人家族の話『澱の呪縛』、若いままでいることに執着する40歳前の主婦を描いた『青春讃歌』、マザコンの息子の母親の介護のために雇われた家で母親の凄まじい憎悪を七瀬が経験する『亡母渇仰』を挙げておきます。また、どの環境にあっても、七瀬は受け身なだけではありません。自分の身やテレパシー能力を守る必要のある時には、攻撃的になります。テレパシーによって得た情報を伝えることで表面上だけつくろっていた夫婦関係を崩壊させたりもしますし、危害を加えようとする相手にそれをぶつけることによって、相手を発狂に追い込んだり、もしかしたら助けられた相手を見殺しにすることもあります。
本書の最初の話では18歳だった七瀬は、最後の話では、人目を引く20歳の美しい女性に成長しました。そして、さんざん人間の醜さを見た住み込みのお手伝いという仕事は、もう辞めようと決意します。そして、彼女の物語は『七瀬ふたたび』へと語り継がれていきます。
本書は、一ヵ所に長く留まっていると、自分の能力が知られてしまう恐れがあるため、あちこちを転々できる住み込みのお手伝いさんという職業を選んだ、高校を卒業したばかりの18歳の七瀬が住みこんだ家の家族模様を描いた7篇の連作短篇集です。ところが、なまじテレパシー能力があるばかりに、七瀬は相手の思考を感じ取ってしまいます。正確には、黙っていても感じ取れるわけではなく、「掛け金をはずす」という行為をする必要があるのですが、一度入りこんだ心の中は、その人物が移動して遠距離に行ったとしても、継続して感じとることができますし、近くにいると、逆に意識して「掛け金をかける」行為をしないと、相手の思考を感じてしまうほど、テレパシー能力は鋭いものがります。そうやって、住み込み先の人間たちの本性若しくは普段は隠された欲望、特に肉欲と物欲の激しさを七瀬はもろに感じてしまいます。また、語られている欲望が、あまりにもリアルなので、わが身を振り返って、慄然とするような描写が続きます。この辺は、筒井康隆らしいタッチがよく出ていると思います。
収録作で、特に印象的なのは、不潔という概念を失ったような十三人家族の話『澱の呪縛』、若いままでいることに執着する40歳前の主婦を描いた『青春讃歌』、マザコンの息子の母親の介護のために雇われた家で母親の凄まじい憎悪を七瀬が経験する『亡母渇仰』を挙げておきます。また、どの環境にあっても、七瀬は受け身なだけではありません。自分の身やテレパシー能力を守る必要のある時には、攻撃的になります。テレパシーによって得た情報を伝えることで表面上だけつくろっていた夫婦関係を崩壊させたりもしますし、危害を加えようとする相手にそれをぶつけることによって、相手を発狂に追い込んだり、もしかしたら助けられた相手を見殺しにすることもあります。
本書の最初の話では18歳だった七瀬は、最後の話では、人目を引く20歳の美しい女性に成長しました。そして、さんざん人間の醜さを見た住み込みのお手伝いという仕事は、もう辞めようと決意します。そして、彼女の物語は『七瀬ふたたび』へと語り継がれていきます。
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「本職」は、本というより映画です。
本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:231
- ISBN:9784101171012
- 発売日:1975年02月01日
- 価格:460円
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