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BOOKSHOP LOVER
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自叙伝でありながら感情に溺れず淡々としていながらも味わいある文体を維持している。「愛人の暴露もの」という読む前のイメージを吹き飛ばしてくれたのは嬉しい誤算だった。
近ごろ、自分の文章の好みが私小説ふうというか明確に主語が「わたし」であるものだということに思い至った。それはこの記事の通りであるし、佐々木俊尚氏の『当事者の時代』に共感するからだ。ホンシェルジュで編集として赤を入れるときに主語や目的語を注意して読むのと似ている。つまり、「誰が」「何について」書いているのかが文章においては重要で、その中で、「私が」「何かについて書いている文章」をぼくはいまのところ好んでいるということである。

そんなとき『安部公房とわたし』に出会った。

ぼくが本書と出会ったのはトンボ玉さんの書評なのだが、まず装丁に惹かれた。「この美人さんは誰だろう? 安部公房の娘だろうか?」そんなことを思いながら書評や本文を読んでみると、なんと愛人ではないか。女優のことはあまり分からないのだが検索してみると『はぐれ刑事純情派スペシャル』などで見たことのある方。どんな物語が始まるのだろうと好奇心から読み始める。

自分にとって素晴らしかったことはその女優・山口果林さんの自叙伝として書かれていることだ。その上で、感情に溺れず淡々としていながらも味わいある文体を維持している。だから、ぼくは読んでいて静かに楽しむことができた。「愛人の暴露もの」という読む前のイメージを吹き飛ばしてくれたのは嬉しい誤算だった。

安部公房について。

『R62号の発明・鉛の卵』と『砂の女』を読んだことがある程度だが、はじめて読んだ23歳のときには「こんな不穏で怖い小説を書くひとがとんな人なのだろうか」という気になった。それから7年経ち本書を読んだことでなんとなくではあるが安部公房の人となりが分かり、自分の中の謎も一部ではあるが解くことができたように思う。

世の中のアウトサイダーであり、その立ち位置から作品を紡ぎ続けた貪欲の人。それでいてカワイイ一面もある愛嬌の人。それが本書を読んでぼくが得た安部公房のイメージだ。

文体の好みと安部公房についての発見を得られた稀有な読書体験だった。
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BOOKSHOP LOVER さん本が好き!1級(書評数:282 件)

本屋を応援する活動BOOOKSHOP LOVERです。本が好き!の中の人でもあります。
主に本屋の本と本の本、デザイン周りが好きですが、SFも好きです。社会系の本もちゃんと読みたいところ。積ん読しまくりであります。

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この書評へのコメント

  1. くにたちきち2016-10-15 05:25

    山口果林がこの本を書いた動機の一つに、安部ねりの『安部公房伝』に自分のことが全く触れられなくて「透明人間」のような扱いを受けていることへの反論(?)ではないかと思います。もちろん、安部ねりは公房の一人娘ですから、父親の陰部について書けなかったのは当然だとは思いますが、それだけにこの本の悲しさが、感じられます。もう一方の本も是非読んでみて下さい。

  2. BOOKSHOP LOVER2016-10-15 09:54

    くにたちきちさん、コメントありがとうございます。
    『安部公房伝』読んでみます!!

  3. 下手くそピアノ2016-10-20 10:23

    bookshop loverさんのコメントはとても不思議。多くを語らず、真髄を突いていて。安部公房と私の★が無いのは、やはり、意図があるのですか。

  4. BOOKSHOP LOVER2016-10-20 13:04

    下手くそピアノさん

    そうおっしゃっていただけて光栄です。
    ここの書評(というとおこがましいですが)は自分の読書メモで、自分が感じたこと考えたことを中心に書いていますので、じつは内容についてはほとんど触れていないのでお恥ずかしいですが。

    星をつけていないのは……すみません。忘れただけです 苦笑

  5. お父さん(松)2017-12-24 00:46

    はじめまして。
    この本のカバーを外すと、山口果林さんが今も安部公房を愛しているということがわかります。人知れず愛し合っていたということが。

  6. No Image

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