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三太郎さん
三太郎
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シカゴ育ちのダイベックによる第二短編集。シカゴの光と深い闇が印象的。
アメリカのシカゴは米国北部の大都市だけれど、僕は一度も街に降り立ったことがない。成田から米国の東海岸への乗り継ぎのためにシカゴの空港内を(時には走って)移動した記憶しかない。知識としてはシカゴと言えばまず連想するのがマフィアのアル・カポネと音楽のジャズだ。

著者のダイベックの経歴についてはよく解らないが、作品に東欧からの移民らしい人々がよく出てくるから、彼の先祖も東欧から米国へやってきたのだろう。シカゴで生まれ育ったという。

彼の少年時代の話を読んでいると、シカゴの町の北側と南側は分断されていて、著者の住む南側の住民は東欧やメキシコからの移民や黒人が大部分のようだ。

「冬のショパン」は著者の少年時代の思い出のようだ。上階にすむ少女、マーシーはニューヨークの音楽学校に進んだのに妊娠して戻ってくる。彼女の弾くピアノを聞いたジャジャ(祖父)はあれはブギウギだ、黒人の男に恋をしたな、という。

そのうち彼女はショパンばかり弾くようになる。ジャジャは、あれは「華麗なる大ワルツ」だ、そっちは「大ワルツ」だ、などと少年に教えてくれる。

ジャジャは少年に毎晩ショパンの話をした。プレリュード、バラッド、マズルカそしてワルツ。彼女はまだ若いのにワルツの秘密を知っているという。ショパンのワルツは讃美歌なんかよりもずっと人の心について語れるのだと。

少年が眠りにつく頃、彼女は前奏曲の「あまだれ」を弾いた。少年は使われなくなったダスターシュートや配管やその他様々な隙間を通って聴こえてくる彼女のピアノに耳を澄ませた。

僕はこの「冬のショパン」が一番好きかもしれない。かつてのホーボーのような放浪生活者の祖父がシカゴの下町で孫にショパンについて講釈する。シカゴのジャズは黒人の音楽だけではなかったのだろうなあと感慨深い。

もう一つ紹介するとしたら「夜ふかしする人たち(ナイトホークス)」だ(翻訳では「夜鷹」となっている)。失業中の「僕」は美術館に通うようになる。エドワード・ホッパーの代表作「ナイトホークス」の絵の前で僕は絵画に描かれている深夜のバーの中に入り込んでいき、バーテンダーと男女二人の客と、彼らから離れて座っている男の客についての夫々の物語を語る。

店を出た僕は雨の中を地下鉄の入り口に向かい、脱走兵の黒人のドラマーに会う。彼はコンガを叩きながら亡くなった恋人を探しに地下の迷宮を練り歩く・・・ちょっと神話的な物語だ。

ダイベックの描くシカゴの街は、闇と影が支配する南部の街と、光が溢れる湖に面した北部の街の対比が著しい。

小説の中で僕は時にサックスを吹くという。やはり音楽の街らしい。

なお、今でも現実のシカゴは治安上危険な街であるらしい。
    • Wikipediaより
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:825 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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