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ぽんきち
レビュアー:
「かんじんなことは、目に見えない(Le plus important est invisible)」
『夜間飛行』を読んだので、久しぶりに再読してみた。

近年、さま々な新訳も出ているが、こちらは長年翻訳権を保持していた岩波書店版、内藤濯(ないとう・あろう)訳、1953年初版のもの。実に80年前の訳書である(原著刊行は1943年)。
原題はLe Petit Princeで、「小さな王子さま」くらいの意味である。これを「星の王子さま」としたのは訳者、内藤の発案であり、この邦題は、本書が日本で長く愛される要因の1つとなったのではないだろうか。

「ぼく」は数年前、飛行機の故障でサハラ砂漠に不時着した。
そこで出会ったのは風変わりな男の子、「王子さま」。
「王子さま」は、遠くの小さな星から長い旅をしてきたのだという。
「王子さま」は「ぼく」にさまざまな話をする。
旅の途中、立ち寄った星々にいた、奇妙な大人たちのこと。
「王子さま」が住む星のこと。
地球に降り立って出会ったヘビやキツネのこと。
そして、故郷に残してきたバラの花のこと。

「王子さま」の語りは、童話風でありつつ、どこか哲学的である。
冒頭のひとことは砂漠であったキツネが「王子さま」に言う言葉である。キツネは<飼いなら>されることを警戒しているが、結局のところ、「王子さま」と友達になる。さよならを告げる王子さまに、おみやげとして秘密を教えてくれるのだ。

「ぼく」が描く、ゾウを呑んだウワバミの絵や、「ぼく」と「王子さま」のヒツジの絵問答、巨大化するバオバブの木など、印象的なエピソードは数々ある。
個人的には、大人たちに批判的な「王子さま」の「子どもらしさ」がいささか鼻につくところもあるのだが。
大きな印象を残すものの1つは、やはりバラの花だろうか。美しくて、自分勝手で、しかしはかなくて。「王子さま」は花を愛していたのに、星に残してきてしまったのだ。

表紙の絵も含め、著者自身による挿絵がなかなか味わい深い。
星の王子さまといえば、多くの人が思い浮かべる絵だろう。

昔読んだときにもいま一つこの物語の「芯」が掴み切れない感じがしたのだが、それは今回も同じだったかもしれない。
ただ、今回、最も心に残ったのは、幕切れだ。
「王子さま」は、ある方法で、「ぼく」の前から姿を消す。
「ぼく」は、不時着事故から生還するのだが、王子さまを失い、心に空白を抱える。
「ぼく」が描いた1枚の絵がある。
砂漠の上に浮かぶ1つの星。
これを「ぼく」は「この世の中で一ばん美しくって、一ばんかなしい景色」と呼ぶ。
そう、これは喪失の物語でもあるのだ。
そう思うと、どこか全編に「かなしさ」が漂うようにも思う。
「王子さま」はバラを愛しているのかもしれないけれど、そしてバラも「王子さま」を愛しているのかもしれないけれど、どこか心はすれ違っている。
「ぼく」と「王子さま」は友達になるが、別れはいつか訪れる。
大切なことを教えてくれたキツネも、飼いならされることは望まない。
しかし、C'est la vie、それが人生であるのかもしれない。

美しい星空に消えた王子さま。
「星の王子さま」は、やはり名訳だと思う。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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