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かもめ通信
レビュアー:
こと小説の好みに関してはきわめて保守的だと思ってきた私の自分に対する「認識」も、そろそろあらためるべきなのかも!?
ある日、その場にいた人たちは1通の手紙を回し読みしていた。
その手紙は、既婚者でそれなりに地位もある男性が
ある女性宛に書いたもので、
それがどうしてその場で回覧されることになったのかは定かではないが
書いた人物が人物だけにその意外性をふくめ
格好の肴にならざるを得なかった。

その手紙を書いた男性・アランは
「私」が誰からも見放された時に声をかけてくれた人物であり
だからこそ「私」はいつか彼を含めた一連の出来事を
形に残したいと思ったのだった。

そんな形で始まる物語だから
おそらく「私」の回想で綴られていくのだろうと思いきや
「私」は早々に退場し
行間からも読み手の頭からもあっさりと姿を消してしまう。

主な登場人物は13人。
いずれもニューヨーク近郊に暮らす上流階級の人々で
その一見単純そうで実は複雑に入り組んだ関係が、
1930年代半ばと1960年代前半を行ったり来たりしながら明かされる。

各章には「アランとエリザベス」「オリバーとエリザベス」
「オリバーとポーリーン」……など2人ずつ名前が掲げられ
夫と妻、愛人たち、父と娘、画商と画家、姉と弟など2人ひと組で
章ごとに主役にあたる人物たちが入れ替わる。

時系列にならんではいないし、
TV画面が切り替わるように
章が変わる度に主役の交代と共に視点も変わるが
決して読みにくくはなく
一つの出来事について様々な視点で語られるので
読者はその出来事の表も裏も側面をも覗き込むことが出来る。

表も裏も知ってしまうが故か
好感が持てる人物は少なく
とりわけ誰をも惹きつける魅力的なはずの人物に
顔をしかめてしまったりもする。

けれどもそうした嫌な面がさして気にならなくなるほどに
最初に与えられた情報から得る読者の「認識」が
次々与えられる別の視点からの情報により
少しずつ修正されていく過程が非常に面白い。

そしてまた最後の最後に………!!!


この小説は訳者である木原善彦さんの著書『実験する小説たち』でも
紹介されていたのだけれど
『両方になる』『10:04』に続き
これもまたハマるタイプの本だったことを考えると
小説の好みに関してはきわめて保守的だと思ってきた
私の自分に対する「認識」もそろそろあらためるべきなのかもしれない。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2235 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2019-09-09 06:04

    祝 #白水社 #エクスリブリス #創刊10周年 記念読書会 只今開催中。
    気がつけば60作中54作品が紹介済!
    ゆっくりじっくりたのしむはずが、ついつい全点制覇をめざし始めてしまいました。
    残る6作は下記の通り、チャレンジャーお待ちしていますw

    <本が好き!に一つもレビューがない作品>
    ・ポラーニョ『野生の探偵たち』
    ・オラシオ・カステジャーノス・モヤ『無分別』
    ・エステルハージペーテル『女がいる』
    ・甘耀明『鬼殺し』

    <この読書会ではまだ紹介されていない作品>
    ・イルストラード
    ・神は死んだ

    もちろん既出作品のレビューも引き続き募集中です!

  2. No Image

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