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hackerさん
hacker
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英米を中心とした本格ミステリーの黄金期、それに対抗(?)してヨーロッパ大陸で気を吐いていたベルギーの作家S.A.ステーマンによる、この分野における奇書と呼ぶにふさわしい作品です。
S.A.ステーマン(1908-1970)は、出身地のベルギーのみならず、第二次大戦前の時期のヨーロッパ大陸を代表する本格ミステリー作家です。私も何冊か読んでいて、レビューも書いていますが、クリスティの『そして誰もいなくなった』(1939年)より前に同じ発想で書かれた『六死人』(1931年)と、鮎川哲也が絶賛した『マネキン殺人事件』(1932年)が特に印象に残っています。1932年刊の本書も、れっきとした本格ミステリーなのですが、それ以外のことで、奇書と呼ぶにふさわしい内容を持っています。まず、それを簡単に紹介します。


歴史的遺産ロヴェルヴァル城には、最近そこを買ったユーゴー・スリムが、再婚したばかりの妻のエレーヌ、親代わりになっている姪のフェルナンド、そして友人だというネッペル医師と住んでいました。ただし、ユーゴーが何をして財を成したのかは、誰も知りませんでした。ある嵐の夜、ユーゴーに招待されて、サン・ファールという手相見士がやってきます。ところが翌朝、ユーゴーが自室で撃たれて死亡しているのが発見されます。警察がやってきて、現場検証と死体解剖を行いますが、窓に向いた机に座っているところを、窓の外から撃たれたことが分かります。その場で、サン・ファールはヴァン・ダインの『ベンスン殺人事件』(!)で描かれている通りの弾道検査をしたところ、窓の外から撃ったとすると、庭が低くなっている関係で、犯人の身長は2メートル40センチ(!)、窓に張りついて撃ったとすると、犯人の身長は80センチ(!)ということになります。「そんな馬鹿な」と警察は思いますが、サン・ファールはそういう人間を実際に見たと言います。それは、祭りの見世物小屋ででした。そして、実は、ネッペル医師は障がい者に更に手術をして外見を変え、そういう人間を見世物興行者に売り渡していたのが、ユーゴーだったのです。


お分かりと思いますが、『モロー博士の島』(1896年)の獣人のヴァリエーションを、本格ミステリーの世界に持ち込んだ作品です。ただ、『モロー博士の島』は獣を人間にする話なのに対し、こちらは障がい者の外見を人間ではないものに作り変える話なので、ずっとおぞましい内容です。それゆえ、SFと本格ミステリーの融合とも言える意欲的な試みなのですが、もはや書かれることのない類の作品ですし、執筆当時の一般的感覚では致し方ないのでしょうが、読んでいて不快に感じる描写もあります。

ただ、whodunit と whydunit にはなかなかの冴えを見せていて、そういう意味ではもったいない作品です。殊に whydunit は、明らかにクリスティの某有名作品の原型となっているもので、それだけインパクトがあります。whodunit も、フェアでない点も多々ありますが、主要登場人物が少ないことと意欲的な試みだということを考えると、評価しても良いと思います。ただし、howdunit に関しては、穴が多いです。

好事家向けの作品ですが、興味のある方はどうぞ。
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2282 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

読んで楽しい:1票
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