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ぽんきち
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メラニン色素が欠乏するということ
アルビノ。先天性白皮症。俗に「白子」ともいう。
メラニン色素生合成のいずれかの部分を担う遺伝子に欠陥が生じるため、メラニンが作れなくなった結果、生じる疾患である。体毛や皮膚が白くなり、紫外線に弱く、視覚的障害を伴う例が多い。が、症状については個体差が大きい。
1万~2万人に1人が発症すると言われる。
本書はこうしたアルビノの人たちを複数取り上げ、その人生を丁寧に追ったルポルタージュである。

動物の例がときどきニュースになるが、人のアルビノについてはそういえばあまり考えたことがなかった。
本書は、アルビノのみについて書かれた本としては本邦初、ということになるようだ。それだけ注目されてこなかった、あるいは触れられてこなかった話題、ということになるだろう。

アルビノが特殊な点は、その「外見」が目立つことだろう。特に、日本人のような有色人種の中では、色白で白髪という「外見」がきっかけで、忌避されたり、からかいの対象となったりすることも多いようだ。
その一方、正確な知識を持っている人は少なく、極端な場合では、病院でもなかなか判断がつかず、患者や家族が苦労した挙句にようやく正しい診断にたどり着く、といった例もある。外見から虚弱に見えるということか、昔は(いや今でも)長生きはできないという俗説まであったという(これは根拠がない話で、実際に高齢のアルビノ患者も存在する)。
つまり、ぱっと見て目立つのに、正しく理解されていない、ということである。

もう1つ特徴的なのは、現時点では根本的な治療法がないことだろう。
紫外線に弱いため日光になるべく当たらないように、また眩しさを感じやすいため窓際の席は避けるように、弱視の症状が進んだらルーペを使うなどするように、等、とにかく対症療法で凌ぐしかない。

そうした困難を乗り越え、患者同士がつながりを持ち、それぞれの道で生き抜き、海外にも目を向けていく。そのさまを、著者はじっくりと取材し、書き起こしている。
当事者や家族であれば不安を払拭された、また力づけられた点を拾うことも出来るだろう。特にこれまでに類書がないということであれば、そう少なくないアルビノ患者にとっては、非常に意義の大きい書であるだろう。

読み終わってみて、「部外者」としての感想にどれだけ意味があるのか、今ひとつわからないのだが、簡単に述べておく。
さまざまな事例があり、それぞれの人がそれぞれの事情を抱える。症状の重さもそれぞれだが、環境も多様である。周囲に理解のある人がいる場合もあれば、理解のない家族に苦しむ人もいる。
だが、それは誰しも、同じではないか。
程度の違いはあれ、誰もが自分の「ハンディ」を持ち、誰もが自分の「環境」の中で生きている。
そういう意味で、特別な人たちの特別な話というよりも、普遍性のある話であるようにも読める、そんな本だと思う。


*保因者は意外に多いようである。複数の遺伝子が関与しており、また関与している遺伝子すべてが明らかになっているわけではないが、ほぼ50~70人に1人が保因者と概算されるようだ。遺伝子は2つで1組であり、一方のみが欠陥の場合、外見には現れない。両親とも、症状が出ていないが保因者である場合、両親のそれぞれの欠陥遺伝子を引き継げば症状が現れることになる。

*複数の遺伝子が絡むだけに、遺伝子診断はかなり複雑になるようである。

*症状の軽い場合、髪を染めるなどで対処し、アルビノとして表には出てこない患者さんも結構多いのかな・・・?という感じもする。

*脈絡膜の色素欠乏から、網膜での光の受容が不十分である場合には、視細胞が未成熟となるようである。その場合は、眼鏡などの屈折率を変える矯正では効果が得られにくい。

*巻末に参考文献や参考ウェブサイトがまとめられているが、本書にももう少し遺伝学的・医学的な説明があってもよかったように思う。本書の主眼はそこではなかった、ということだと思うが。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1820 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)、ひよこ(ニワトリ化しつつある)4匹を飼っています。


*能はまったくの素人なのですが、「対訳でたのしむ」シリーズ(檜書店)で主な演目について学習してきました。既刊分は終了したので、続巻が出たらまた読もうと思います。それとは別に、もう少し能関連の本も読んでみたいと思っています。

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この書評へのコメント

  1. 梅里松庵2013-11-27 22:56

    作家の故三浦哲郎氏の兄弟がアルビノで、そのことを繰り返しいろいろな小説で書いていたのを思いだしました。

  2. ぽんきち2013-11-28 00:05

    梅里松庵さん

    あ、はい、三浦さんの著作についても触れられていました。
    家族のことについて最も詳しく触れられているのは添付の本のようですね。
    男3人、女3人の兄弟のうち、長女と三女がアルビノだったとのことです。

    アルビノだけが理由だったのかどうかわかりませんが、兄弟のうち4人は自死や失踪を選び、残ったのは三女と三浦氏本人だったとのこと。三女を主人公にした続編も構想されていたようです。タイトルは「暁の鐘」になるはずだったそうです。

    私、昔「忍ぶ川」は読んだのですが、「家族に問題を抱えた」という認識で、アルビノと関連づけては記憶していなかったです。

  3. No Image

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