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かもめ通信
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目標は「向こう半年、月に1作、漱石作品を読んでみる!」こと。まずは手始めにこの処女作と勇んで手にしたのは良いけれど、本当に目標達成できるのかはなはだ不安な幕開けとなった?!
古典とは、ふつう、人がそれについて、「いま、読み返しているのですが」とはいっても、「いま、読んでいるところです」とはあまりいわない本である。そう言ったのはイタロ・カルヴィーノ。(『なぜ古典を読むのか』

だが同時にカルヴィーノは言う。どんなにたくさんの本を読んでいたとしても、読み終えた本より、読んでいない本の方が圧倒的に多いのだから、心配することはないのだと。

だから私も「恥ずかしながら…」と思い切って告白するが、この有名な作品を最後まで読み通したのは実はこれが初めてだ。
言い訳をするわけではないが、10代の頃から何度も読もうと決意して実際にページをめくりもしたのだ。
だが、その都度途中で、しかもかなり早い段階で挫折し続けてきた。

今回ようやく読み切ることができたのは、Wings to flyさんが主催するネット読書会、100年目に読む夏目漱石のおかげである。

そしてまた「金田夫人が登場するあたりから、話はメリハリが出て面白くなってくる」と教えてくれたぷるーとさんをはじめ、こちらこちらにあるような興味深い先行レビューを書いて下さった皆さんのおかげだ。

さらには先日読んだ『漱石の思い出』に綴られていた漱石の妻鏡子さんの実に興味深い告白の数々のおかげでもある。

しかし、しかしである。こうした事情にもかかわらず、 大変申し訳ないが『こころ』に続いて今回もまた私はこの物語、ほとんど楽しむことが出来なかった。

そもそもが猫である。
この物語の語り手が猫であることは、もう必然と言うべき。
なにしろこの話、猫が語るのでなければ上から目線の連続で、実に鼻持ちならないインテリのたわごとばかりなのだ。

猫ならば許される。
なにしろ猫ときたら、唯我独尊、我が道を行く、人を人と思わないのか人などケッと思っているのかはさておいて、ツンとすまして許される特別な存在だ。

かの猫が、人々を見下して、あれこれ言う分には文句はいえまい。
これが作者やら猫の飼い主である苦沙弥先生やらの口でああでもないこうでもないと言われ続けたならば、そういうあなたは何様だと文句のひとつやふたつ、三つや四つは言い出さずにはいられないのが人というもの(少なくても私はそう)だ。
だからこそこの設定は非常に興味深い。

もっとも猫故に回りくどい場面がないわけではない。
全くこの猫ときたらどこにでも潜り込んで、あちこちで聞き耳を立てるものだから、主人である苦沙弥先生の宿敵金田家のあれこれも“見てきて”描ける利点はあるが、寒月さんの講演会に出向いていくことはできないから、そのネタを振ろうと思えばどうしたって苦沙弥邸でのリハーサルが必要となる。
語り手を猫としたための工夫が随所に見られて興味深くはあるが、そんなことを考えながら読んでいる方は非常に疲れる。
なら考えずにただただ読めば良いのだろうが、こういう理屈っぽい話を読んでいると読み手もついつい偏屈になってしまうのだ。

そうかと思うとお隣の中学の生徒たちとの攻防がこれまたなんともいたたまれない。
猫が仕入れてきた情報で中学生たちの企みとその背後にある策略が読者に明らかにされる仕組みなのだが、『漱石の思い出』によれば、この中学生達と漱石との衝突は実際にあったことではあるが、その原因は漱石自身が妄想に悩まされてのことだったというなんとも痛ましい話があって、猫が聞いたあれこれが漱石の幻聴のようにも思われて読んでいてなんだかつらくなる。

原作を読む前にそういう情報を仕入れる読者が悪いのだといわれれば、確かにそうかもしれないが、その一方で私の場合、『漱石の思い出』を読んでいなければ、一生『吾輩…』を読み通さずにすごしてしまっていたかもしれないとも思うのだ。
なんといってもこの物語の唯一の救いは苦沙弥先生の奥さんが登場するシーンが楽しかったことだから。


それはさておき、猫があちこち潜入して仕入れてきた情報によって構成されていたはずの物語は、後半に入るとどうしたわけか猫の手を離れ、作者がぐぐっと前面に出てきて変調をきたす。
ところどころにとってつけたように「猫だから」「猫だって」と口を挟みはするけれど、書き手がまどろっこしくなったのか、はたまた興が乗って全面展開したくなってきたからなのかは定かではないが、作品は明らかに一貫性を欠いているように思われた。

だがこれは処女作だ。
処女作にしては着想もよく、読みづらい部分はあるがそれなりに興味深い。
天下の文豪のハードルを勝手にあげているのは私の方だと猫ばりに偉そうに自分で自分に言い聞かせて、私は次の作品へと手を伸ばす。
はたして漱石への苦手意識は克服できるのか、私の無謀なチャレンジは続く……(予定)
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2237 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. Wings to fly2016-06-21 20:08

    いやはやお疲れ様でした(^ ^)かもめ通信さんのこんなに苦しそうな(笑)書評は初めて読んだ気がします。
    >無謀なチャレンジ
    いえいえ、勇気あるチャレンジでしょ!わたくし、大変に苦手な『華麗なるギャツビー』に早々に挫折してもはや見向きもしないことを密かに反省してます。
    次は何かな〜〜♪

  2. はるほん2016-06-21 20:14

    あっはっは!Wings to flyさんに激しく同意。>苦しそうな(笑)

    正直なトコロ、ストーリーとしては読み辛い話だと思います。
    一貫性がないというのも凄く納得。
    むしろ「人間なんぞ書くか!」という漱石先生が
    どんどん人間キャラ話に移行せざるを得なくなったという点で
    個人的には楽しんだ感じです。

    「坊ちゃん」も思い切り叩いてくださいww

  3. かもめ通信2016-06-21 21:21

    ホントWings to flyさんが立ち上げてくれた企画のおかげで、ようやく長年胸つかえていた小骨が取れたわww

    でもそう?やっぱりそんなに苦しそう?(^^;)
    そういえば、以前課題図書でハルキを読んだ時も、みんなに苦しそうだって言われたっけねえww

  4. かもめ通信2016-06-21 21:26

    >どんどん人間キャラ話に移行せざるを得なくなったという点
    え?はるほんさんお、ツボはそこなの??(驚

    っていうか、はるほんさんがラノベ調だっていうから~すっかり騙されちゃったわw
    どちらかというと~『坊っちゃん』の方がラノベ系じゃない?

    しかし、二十歳を過ぎてもまだ子ども!
    地で行くあの男に喝!を入れるのは難しそうよww
    (と、既に読みかけているらしい>『坊っちゃん』)

  5. はるほん2016-06-21 21:48

    読みやすさでは「坊ちゃん」の方がライトですが
    ただただ猫萌え(漱石先生萌えてないけど)に徹してるあたり
    ラノベだな~~って思ったのです。

    自分は「作家の顔がみえる文学」(野菜かよ)が好みなんです。多分。

  6. かもめ通信2016-06-21 22:05

    なるほど、やっぱり猫ポイント高し!なのね!
    「作家の顔がみえる文学」
    えーと私もそういうの好きかも…??
    見えるのが太宰なら飛びつくんだけどなww(←なんか勘違いしているらしい)

  7. ゆうちゃん2016-06-27 21:35

    かもめ通信さんが未読とは、驚きました。僕は、新聞の連載を読んで投稿しようと思っています。今、ちょうどぷるーとさんが、話が動き始める、と書かれた、金田夫人が登場した辺りで、多分百年には間に合わないと思います。しかし、色んな逸話が重なる感じで、コメントしにくい本なのは確かですね。

  8. かもめ通信2016-06-27 22:12

    ゆうちゃんさん、コメントありがとうございます!
    私はですね~自分でも情けないほどに近現代日本文学を読んでいないんですよ。
    たぶん、このサイトに出会わなければ、漱石だけでなく鴎外も川端も谷崎も読まずにいたんじゃないかしら…(汗)
    という具合にただいま修行中(?)なので、どうぞ生暖かい目で見守ってやって下さいww

  9. Tetsu Okamoto2016-06-28 11:11

    岡山のきびだんごがでてくるエピソードがありますが、どこの店でだれが買ったか、現在ではモデルが特定できています。岡山人なもので、そんなところをおぼえております。

  10. かもめ通信2016-06-28 11:21

    Tetsu Okamotoさん,わかりますわかります!郷土愛ですねw
    きびだんご,美味しいからな~それもわかります!w

  11. ゆうちゃん2016-06-28 21:16

    じっ、実は、僕も漱石以外の日本文学は、ほとんど読んでいません!そのうち読まないと・・。

  12. かもめ通信2016-06-28 21:28

    ふふふっそんなゆうちゃんさんにもってこいの企画がいま開催中です!(飛んで火に入るなんとやらww)
    <読書で世界を旅しよう♪ 八十日間世界一周!!>
    http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no248/index.html?latest=20

    ガイブン好きさん!お待ちしております♪

  13. ゆうちゃん2016-06-28 22:49

    これ、いい企画ですね。うっかり見逃すところでした!

  14. ゆうちゃん2016-06-29 00:22

    とっても楽しい企画ですね。わざわざのご紹介大変ありがとうございました!

  15. 祐太郎2017-08-09 06:15

    おはようございます。

    ぜひとも、「ホンノワ」テーマ:勝手にコラボ企画「ナツイチ2017」を制覇しよう!
    http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no292/index.html#com2th-14732
    にもこの書評のご協力お願いいたします。

    まだ、この名作がまだアップされてないのです。

  16. かもめ通信2017-08-09 07:27

    いやいや祐太郎さん、「吾猫」ならこんなアンチレビューじゃなくて、他にふさわしい方がいらっしゃるでしょう。
    私は別のまだ手つかずのところで参加できたら~と思っているのですが、いかんせん繁忙期なもので8月末までに間に合うかどうか……と、読みます宣言、躊躇しています。

  17. 祐太郎2017-08-11 08:09

    いつでも読みます宣言、お待ちしています。

  18. かもめ通信2017-08-11 08:23

    せっかくのお誘いなので、まだ誰もレビューを書いていない本を1冊ポチりましたw
    掲示板にも読みます宣言しておきます。

  19. Yasuhiro2017-08-11 11:13

    ども、漱石大全読破プロジェクトのYasuhiroです。いやあ、猫で挫折寸前とはかなりのアレルギーですねぇ(^^)。レビュー拝見しますと、私の予想では坊ちゃんは越えられても、その次の草枕の途中でギブされるのでわ?是非私の予想ポイントを乗り越えてくださいませ。

  20. かもめ通信2017-08-11 16:53

    いや本当に、昨年1年間はWings to flyさんが主催した「100年目に読む夏目漱石」のおかげで、しなくてもいい苦労をしましたよw
    http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no244/index.html?latest=20

    何しろこの↑企画が始まる前に読了していた漱石作品は「こころ」と「明暗」だけだったのです。
    ちなみにYasuhiroさんが高く買っておられる「こころ」は10代のころから大の苦手で、本が好き!の読書会(課題図書倶楽部)を機に意を決して挑んだ「明暗」はこれ、なかなか気に入ったという前振りでしたw

    「吾輩は猫である」「坊っちゃん」「文鳥」「虞美人草」「三四郎」「それから」「門」「行人」と読んで、感想も書き散らしてきたのですが……。

    すみません「草枕」は、未だ手つかずです。。。。(汗)

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