かもめ通信さん
レビュアー:
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本を閉じながら、人類が繰り返してきた、そしてまたこの先も繰り返すであろう過ちの数々を、神の不在のせいにはできないと、私は大きなためいきをついた。
神は死んだと聞けば、まず思い浮かべるのはニーチェ。
そのせいか、なにを今更という気がしてしまって
当初この本には手が伸びなかった。
けれども諸処の事情から意を決して読み進めると
そこにはニーチェどころではない、
思い切った設定が待ち受けていた。
なにしろ「神」ときたらこの連作短編集の巻頭作品でもある表題作で
あっけなく死んでしまうのだ。
舞台はスーダンの難民キャンプ。
ディンカ族の若い女に姿を変えた「神」は、
理由あって「弟」の行方を探している。
彼女は「神」なのだが人間たちの蛮行に打つ手がなく
目の前で大勢の人々の命が無惨に奪われていく現実を
ただ見守ることしか出来ない自分を恥じてもいた。
政治的な駆け引きのためにちょうどキャンプを訪れていた
ブッシュ政権下のパウエル国務長官は、
そうとは知らずに「神」と出会い、
自分の人生における最大の後悔を贖罪するために、
自らの立場をなげうって、彼女(=神)を助けようとする。
(「神は死んだ」)
だがパウエルの努力の甲斐なく「神」は死に
信仰の対象をうしなった聖職者は死を選び(「橋」)
若者の集団自殺が横行(「小春日和」)、
人々は「神」の代わりに我が子を崇拝するようになる(「偽りの偶像」)。
そうかと思えば、その遺体を食べた犬が
高度な知性を有するようにもなったりも(「神を食べた犬へのインタビュー」)。
さらに世界は異なる価値観を戦わせ、大戦争へと発展していく。
著者の、そして訳者のうまさもあるのだろう、
現在社会に対する痛烈な皮肉がこめられた重いテーマであるに関わらず、
あれこれ考え込む隙を与えず最後まで読み切らせてしまう。
けれども、とても残念なことではあるが、
ここに描かれているあれこれは決して
「神が死んだ」ために出現した世界ではなく、
信仰の如何に関わらず、
人間の存在そのものが愚かしいものであることを
告発しているように思われて
陰鬱な気持ちにならずにはいられなかった。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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この書評へのコメント
- かもめ通信2019-09-27 06:25
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- ページ数:242
- ISBN:9784560090275
- 発売日:2013年04月11日
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