ぽんきちさん
レビュアー:
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すごく「あの頃」っぽいけれど、同時にとても「今」っぽい
表題作は吉本ばななのメジャー・デビュー作。
新潮文庫版は、これに「満月-キッチン2」、「ムーンライト・シャドウ」を合わせ、全3編の中編を収める。
いずれも身近なものの死、その対極にあるような生を支える飲食、(LGBTを含めた)少しクィアな人々を描く。生々しくどろどろしても不思議はないような題材を、独特の透明感と軽さで仕上げたその手腕は、吉本ばなな天性のものだろうが、同時に、若くなくては書きえなかったであろう純粋さを感じる。
息苦しくて、でもきらきらした、生きることの苦さを知りつつも汚れ切ってはいない、稀有な若さの数年間。
誰もが経験するわけではない、特異なエピソードを描きつつ、その根底には、誰しもが心に秘める、澄んだ若きまなざしがある。
「キッチン」発表は1987年。
バブル真っ只中とはいえ、これが永遠に続くはずはない不安はあった頃。熱狂的な時代、しかしそれに乗り切れず、どこか冷めた目で見ていた人は多くいたはずである。
本作のヒットには、あるいはそんな「ギラギラ」しない人たちの想いを掬い上げた面もあったのではないか。
同時に先駆的にLGBTを描いた本作は、「自分らしく生きる」ことの意味を、現在もなお問うているようにも読める。
今、読んでも新しい。それがロングセラーの所以でもあろう。
自分自身のことを言えば、本作を読んだのは、確か、大ヒットした当時ではなかったはずだ。へそ曲がりだったから、ほとぼりが冷めた、数年後に(いささか斜に構えて)読んだのだったと思う。メジャーを外したものが大ヒットしすぎて逆にメジャーとなるのは皮肉なようでもあるが、ままありがちなことでもある。今にして思えば、自分にとっての「読み時」は、もしかしたら発表当時だったのではないかと若干残念な気もするが、それも含めてのめぐりあわせだろう。
文庫版のあとがきで、ばななは
やはり、記念碑的な作品だと思う。
新潮文庫版は、これに「満月-キッチン2」、「ムーンライト・シャドウ」を合わせ、全3編の中編を収める。
いずれも身近なものの死、その対極にあるような生を支える飲食、(LGBTを含めた)少しクィアな人々を描く。生々しくどろどろしても不思議はないような題材を、独特の透明感と軽さで仕上げたその手腕は、吉本ばなな天性のものだろうが、同時に、若くなくては書きえなかったであろう純粋さを感じる。
息苦しくて、でもきらきらした、生きることの苦さを知りつつも汚れ切ってはいない、稀有な若さの数年間。
誰もが経験するわけではない、特異なエピソードを描きつつ、その根底には、誰しもが心に秘める、澄んだ若きまなざしがある。
「キッチン」発表は1987年。
バブル真っ只中とはいえ、これが永遠に続くはずはない不安はあった頃。熱狂的な時代、しかしそれに乗り切れず、どこか冷めた目で見ていた人は多くいたはずである。
本作のヒットには、あるいはそんな「ギラギラ」しない人たちの想いを掬い上げた面もあったのではないか。
同時に先駆的にLGBTを描いた本作は、「自分らしく生きる」ことの意味を、現在もなお問うているようにも読める。
今、読んでも新しい。それがロングセラーの所以でもあろう。
自分自身のことを言えば、本作を読んだのは、確か、大ヒットした当時ではなかったはずだ。へそ曲がりだったから、ほとぼりが冷めた、数年後に(いささか斜に構えて)読んだのだったと思う。メジャーを外したものが大ヒットしすぎて逆にメジャーとなるのは皮肉なようでもあるが、ままありがちなことでもある。今にして思えば、自分にとっての「読み時」は、もしかしたら発表当時だったのではないかと若干残念な気もするが、それも含めてのめぐりあわせだろう。
文庫版のあとがきで、ばななは
この小説がたくさん売れたことを、息苦しく思うこともあった。という。過度な注目は、望まぬものも連れてくる。大きな反響の中には、必ずしも著者の意に染まぬものもあっただろう。さまざまな解釈があったであろう中で、彼女の友達の言う
「吉本のあの小説で、この世の女の子のマイナー性が一気に花開いて、表に出て来ちゃったんだよな」という評はなかなか興味深い。
やはり、記念碑的な作品だと思う。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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この書評へのコメント
- ぽんきち2019-09-16 20:14
夏だ! 「新潮文庫の100冊2019」にチャレンジ!https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no363/index.html?latest=20 参加書評です。
残るは宣言ありが1冊となりました。
さくらえび https://www.honzuki.jp/book/116540/
9月末まで。既出も歓迎です~。
どうぞお立ち寄りください。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:197
- ISBN:9784101359137
- 発売日:2002年06月28日
- 価格:452円
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