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かもめ通信
レビュアー:
果たして一葉は本当に“薄幸の女流作家”だったのか?!4月9日吉里吉里忌に井上ひさしの一葉論を読んでみる。
4月9日は井上ひさし氏の命日で“吉里吉里忌”というのだそうな。
できればなにか文学忌レビューを書きたいけれど
手ごろな本は手元にないし……と思いつつ、とある事情で帰省したら……。

あったよ。あった。
実家本棚に母所蔵のひさし本がずらりと!

せっかくなのでどれか1冊……と背表紙を指でなぞって見つけたのがこの本。
その昔、母と一緒に観たことのある『頭痛 肩こり 樋口一葉』という
お芝居の脚本も収録されている1冊だ。

以前読んだ 『太宰治に聞く』と同様、
まずは井上ひさし氏本人による樋口一葉へのインタビュー(!)が収録されている。
このインタビューを実現するためにどれだけ苦労を重ねて
冥界の扉を開けるべく
あちこち訪ね歩いたかはまあ余談として
いざ一葉女史その人にインタビューする内容がまた笑いをさそう。
だいたい仮にも本人に向かって「良いときに死にましたねえ」などと
言ってしまっては身もふたもないではないか。
だがでもやっぱり、するどくて面白いことには違いない。

他にも豊富な写真や同時代を生きた人たちの証言
研究者たちによる一葉論等々
様々な角度から一葉にスポットをあてたまるごと一葉の一冊だ。

とりわけ興味深いのは
井上氏が「夭折した不幸な女流作家」という常識的な評価にこだわらず
一葉を「作家としては最高に幸せな早死にだったのではないか」としているところ。

家を背負い、頭痛や肩こりに悩まされながら働き、
病魔によって早くに命を絶たれる、恋はすべて実らないなど実生活では不幸だったが
あれ以上生きたら作家としてはもっと不幸だったというのである。

一葉の時代は言文一致の文体改良運動が展開されていて
明治41年までには小説は100%口語体になった。
勉強家で頑張り屋の彼女のことだから、
時流に乗ってなんとか小説を書き続けたかもしれないが
「たけくらべ」や「にごりえ」「大つごもり」にみられるような
美しくリズム感のある文体で
“これが一葉だ!”という小説はやっぱりかけなかったのではないか。
絶頂期を早々に迎えてしまった作家のその後は想像するだけで苦しい。
太宰も三島も川端も、長生きして書き続けていたらどうなったか……
井上ひさし流の作家論が興味深い。

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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2238 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. 三太郎2016-04-09 09:06

    樋口一葉も読んでいないが、実は井上ひさしの書いたものもほとんど読んでないことに気が付きました!井上さんは高校の先輩なのにねえ・・・(本人の講演は一度だけ聴いたことがあります)。ところで、今の作家さんは文体を変えずに何十年も書き続けられる・・・それは幸運なことかも。

  2. かもめ通信2016-04-09 10:56

    そうそう、三太郎さん!井上ひさしも仙台ですものね。
    うちの母も同郷のよしみもあってファンになったのだとおもいますw
    井上ひさし、色々書いていますが、とりわけ文豪シリーズは面白いですよ。
    機会がありましたらぜひ!

  3. 三太郎2016-04-09 18:47

    井上さんは僕の中では「ひょっこりひょうたん島」の作者で、戯作者のイメージが強いですねえ。宮藤官九郎とならんで、郷土の生んだ偉大なストーリーテイラーです。

  4. かもめ通信2016-04-10 14:36

    私にとって「ひょっこりひょうたん島」人形劇と子どもの頃使っていた洗面器の柄(!)というイメージなので、誰が書いたかを知ったのはずーっと後だった気がww

    こまつ座のお芝居は、東京で働いていた頃、時々母と誘い合って観に行ったので、井上ひさしといえばこまつ座!というイメージが強いかなあ。

    そうそう、三太郎さん、“塩釜”ってお菓子ご存じですか?
    先日親戚が送ってくれたので懐かしい思い出に浸りながらお茶請けにしていますw

  5. 三太郎2016-04-10 20:46

    僕は演劇には縁がなくて・・・だから井上さんの作品はあまり知らないのです。

    ところで塩釜って白くて甘い、薄茶にあいそうな干菓子ですね。四角いやつを食べたことがあります。塩釜に限らず干菓子は子供の頃よく食べましたね。

  6. No Image

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