紅い芥子粒さん
レビュアー:
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ごんは、さびしがりやの野生のきつねだった。
彼岸花が咲くころになると、思い出す。新見南吉の「ごんぎつね」。
この短い童話のどこの場面に彼岸花が咲いていたのか。
気になって読み返してみた。
彼岸花が咲き乱れていたのは、兵十のおっかあが葬られた墓地だった。
葬列が去ったあと、無惨に踏み折られていた彼岸花。
村には、ごんという名のいたずらもののきつねがいた。
森の中で、あなをほって、ひとりぼっちで住んでいた。
人里へ出てきて、畑や人家を荒らして回る。
名まえがつけられるぐらいだから、おたずねもののきつねだったのだろう。
しかし、兵十のおっかあは、ごんぎつねのせいで死んだわけではない。
重い病気で、死んだのだ。
おっかあが亡くなる直前に兵十は、川で漁をしていた。
キスやウナギが、兵十のびくの中で光ってはねていた。
それを見たごんは、いたずら心をおこして、ウナギを盗んでしまった。
食べるためではない、ただ、いたずらのために。
それからまもなく、兵十の家で葬式が出た。
ごんは頭のいいきつねだ。
死んだのが兵十のおっかあだと知ると、想像をたくましくした。
『兵十のおっかあは、死ぬ前にウナギを食べたかったのだ、だから兵十は、あの日、川で漁をしていたのだ。なのに、おれがウナギを盗んでしまった。兵十のおっかあは、ウナギが食べたい食べたいと思いながら死んだのだ…… ああ、ウナギなんか盗らなければよかった』
きつねの親は、愛情深く子を育てるという。
しかし、子が成長すると、冷たく突き放す。
ごんは、きびしい子別れをしてきたばかりの若いきつねだったのだろう。
おっかあに死なれた兵十の悲しみが、自分の母恋しさに重なったのかもしれない。
深く後悔したごんは、せっせと兵十の家に贈り物を運ぶ。
山でひろった栗やらマツタケやら……
そうとは知らず、兵十は、こっそり家に入ってきたごんに火縄銃を向ける。
どん! ばったりたおれたごん。その近くには、おかれたばかりの栗の山。
「ごん、おまえだったのか」
ぐったり目を閉じたまま、うなずくごん。
火縄銃の筒先から立ち上る薄く青い煙。
涙なくしては読めない場面だが、南吉の描写は、あっさりしている。
兵十は、ごんを抱いたり、ぼろぼろ泣いたりしない。
ただ、たおれたごんを見下ろし、火縄銃をとり落としただけである。
ごんはペットでも家畜でもない野生のきつね。
人と動物の距離感は保たれている。
墓地の彼岸花の場面もそうだった。
彼岸花は野生の花だ。殿さまのお庭の菊とはちがう。人は気にせず踏んで歩く。
踏まれても、彼岸花は、翌年の秋また芽を出し、咲き乱れるだろう。
野生のくせに、人にかまってほしくていたずらばかりしていたごん。
「ごん、おまえだったのか……」。この兵十のことばで、さびしがりやのごんの魂は救われたと思いたい。
この短い童話のどこの場面に彼岸花が咲いていたのか。
気になって読み返してみた。
彼岸花が咲き乱れていたのは、兵十のおっかあが葬られた墓地だった。
葬列が去ったあと、無惨に踏み折られていた彼岸花。
村には、ごんという名のいたずらもののきつねがいた。
森の中で、あなをほって、ひとりぼっちで住んでいた。
人里へ出てきて、畑や人家を荒らして回る。
名まえがつけられるぐらいだから、おたずねもののきつねだったのだろう。
しかし、兵十のおっかあは、ごんぎつねのせいで死んだわけではない。
重い病気で、死んだのだ。
おっかあが亡くなる直前に兵十は、川で漁をしていた。
キスやウナギが、兵十のびくの中で光ってはねていた。
それを見たごんは、いたずら心をおこして、ウナギを盗んでしまった。
食べるためではない、ただ、いたずらのために。
それからまもなく、兵十の家で葬式が出た。
ごんは頭のいいきつねだ。
死んだのが兵十のおっかあだと知ると、想像をたくましくした。
『兵十のおっかあは、死ぬ前にウナギを食べたかったのだ、だから兵十は、あの日、川で漁をしていたのだ。なのに、おれがウナギを盗んでしまった。兵十のおっかあは、ウナギが食べたい食べたいと思いながら死んだのだ…… ああ、ウナギなんか盗らなければよかった』
きつねの親は、愛情深く子を育てるという。
しかし、子が成長すると、冷たく突き放す。
ごんは、きびしい子別れをしてきたばかりの若いきつねだったのだろう。
おっかあに死なれた兵十の悲しみが、自分の母恋しさに重なったのかもしれない。
深く後悔したごんは、せっせと兵十の家に贈り物を運ぶ。
山でひろった栗やらマツタケやら……
そうとは知らず、兵十は、こっそり家に入ってきたごんに火縄銃を向ける。
どん! ばったりたおれたごん。その近くには、おかれたばかりの栗の山。
「ごん、おまえだったのか」
ぐったり目を閉じたまま、うなずくごん。
火縄銃の筒先から立ち上る薄く青い煙。
涙なくしては読めない場面だが、南吉の描写は、あっさりしている。
兵十は、ごんを抱いたり、ぼろぼろ泣いたりしない。
ただ、たおれたごんを見下ろし、火縄銃をとり落としただけである。
ごんはペットでも家畜でもない野生のきつね。
人と動物の距離感は保たれている。
墓地の彼岸花の場面もそうだった。
彼岸花は野生の花だ。殿さまのお庭の菊とはちがう。人は気にせず踏んで歩く。
踏まれても、彼岸花は、翌年の秋また芽を出し、咲き乱れるだろう。
野生のくせに、人にかまってほしくていたずらばかりしていたごん。
「ごん、おまえだったのか……」。この兵十のことばで、さびしがりやのごんの魂は救われたと思いたい。
掲載日:
書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- ページ数:9
- ISBN:B009IXHVC0
- 発売日:2012年09月27日
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