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武藤吐夢
レビュアー:
 映画を見に行く為の予習のつもりで読んだ作品だったが、この激しさに感情が右往左往し、行き場を失ってしまった。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 中村文則さんのデビュー作品。
 これは危険だ。
 読み終えた、今の気分は、チーズフォンデュを無理やり、北京ダックにされる鳥みたいに、地中に埋められ、口から流し込まれ、火傷はするわ、心臓に悪いは、胸やけはするわ、吐き出したい。そういう激しい作品だった
 
 主人公は大学生。彼は、死体を発見する。こめかみを銃弾でぶち抜いたような血まみれの死体。自殺だった。彼は、その死体から銃を奪い逃げ去る。
 彼は、銃にのめりこむ。
 それは、溺愛に近い感情だ、どんどん、それに埋没していく。
 今までは、女性は道具くらいに思っていたのに、急に、一人の女性に惹かれていき、その子を大切に扱うようになるのも銃を拾った影響のようだ。
 たぶん、銃が侵食し、彼の中身まで変えようとしているのだ。
 試し撃ちをしたいと考えるのは男子なら気持ちはわかる。
 だが、彼は近くの公園で死にかけの猫を見つけて、その苦しみを終わらせてやるとか、大義名分を振りかざし、銃を撃つ。殺す、猫を。
 この後、刑事がやってくる。
 彼を疑っている。刑事は、さりげなく拾った銃をどこかに捨てるべきだ、そうしたら、君は、これまでと同じ人生を生きることができるとアドバイスする。
 たぶん、ここが分岐点なんだが、99%の人間はここでとどまるが、彼は、そうはしない。
 隣に住む虐待女を殺そうと決める。
 猫を半殺しにしたのは、その女の息子だという確信がある。
 だんだん、様子がおかしくなる。友や女友達も心配する。
 当然だ。人間を殺すなどという考えを抱くと普通は狂う。想像力があるから、そんなことをしたら、どうなるかくらいわかるから、考えない。
 だが、彼はやろうと考える。その虐待ママを殺そうと考える。そして、その反動から動物や生き物をイジメる、そこの子供にも腹をたてている。

 待ち伏せをしている時、彼は、こんなことを考えていた。
私は拳銃をつかっているのではないのだ、と思った。私が拳銃に使われているのであって、私は、拳銃を作動させるシステムにすぎなかった。私は、悲しく、そして、自分が拳銃に影響され続けていたこと、を思った。
P168

そして、彼は犯行を思いとどまる。
 理性が感情に勝利した瞬間。
 理性的に、銃をコントロールしていたはずなのに、満員電車でむかつくオッサンにキレて、銃を撃ってしまう。理不尽なラストシーン。
 人間には、理性ではどうにもならない本能的な暴力衝動があるとでも言いたいのだろうが、不快だ。
 NHKの朝ドラ的な生ぬるい展開を望んではいないが、こんなラストは嫌だ。しかし、このラストがあるから、この作品はいつまでも残るのかもしれない。映画化もされるのだろう。
 この銃は、別に、権力や暴力に置き換えてもいいのではと思う。ただの比喩だ。
 そうすると、人間という生き物の本質が薄っすらだが見えてくる。
 権力者(銃を持つ物)の傲慢。銃(権力)を持つことの意味や、そういう自覚。色々と深く考えさせられる作品でした。
 正直、この作品よりも、もう1つ「火」という短編が収録されていたのだが、こちらの方がもっと強烈だった。
 

ページ数216
読書時間 9時間

読了日 11/18



 
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掲載日:
書評掲載URL : http://m181.livedoor.blog/
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武藤吐夢
武藤吐夢 さん本が好き!1級(書評数:1372 件)

よろしくお願いします。
昨年は雑な読みが多く数ばかりこなす感じでした。
2025年は丁寧にいきたいと思います。

読んで楽しい:2票
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