かもめ通信さん
レビュアー:
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もしやあなたも、後ろを振り返って見る暇もなく突っ走ってはいませんか?ときどき無性に「故郷」や「あの頃」に帰りたくなることはありませんか?
今年3月、ロシアの作家ヴァレンチン・ラスプーチン氏の訃報を聞いた。
その印象的な名前が、近頃とみに衰えつつある私のカボチャ頭に残っていたのは、hackerさんのこのレビューを拝見して、私もぜひこの本を読もう!とメモをとったからだと気づいた。
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1970年代半ばに書かれたこの物語の舞台は、シベリアのアンガラ川のほとりにあるマチョーラ村。
水力発電事業の促進のためにダムの底に沈むことになったこの村では、移転作業が急ピッチで進められていて、残るは少しでも長くこの地に踏みとどまりたいと願っている年寄りばかり。
老人達のまとめ役でもあるダーリヤは、自分や友人たちがこの土地を離れてどうやって生きていけばいいのかと苦悶する一方で、村に愛着を感じながらも時流に逆らうことができずに町に移り住み気苦労を重ねている息子を心配し、町の生活にすっかりなじんで村の生活を見下しているかのような嫁にため息をつき、町でもあきたらずさらなる土地と喧噪をめざして飛び出そうとしている孫の行く末を案じる。
とはいえ決して頑ななわけではない。
彼女だってわかっているのだ。
息子の立場も嫁の気持ちも孫たちが置かれている状況も。
そんな中で彼女は一人、時の流れに逆らうかのように、大地を踏みしめ、木々のざわめきに耳を傾け、その地に眠る祖先の声を聴こうとする。
とうに亡くなった、父親の声がダーリヤの耳に届く。
だが彼女は自問する。
この世で1番理不尽なことは、樹であれ人間であれ、長生きをし過ぎて役立たずになり、他人の厄介になることではないのか。
樹ならばまだしも倒れて腐り、土の肥やしになるということもあるが、人間はどうだ。
今では畑の肥料は町から運ぶし、どんな知識でも本から吸収されるし、歌はラジオで覚える時代だ。
己の居場所は?自分たち年寄りが生きる意味はいったいどこにあるのだろうか?と。
同時に彼女は抗議する。
この田舎の村が水力発電の源となってようやく他人様の役にたつのだという意見に。
マチョーラ村はこれまでも、大地の恵みで人々を養い、村人たちだけでなく多くの人々の暮らしを支えてきたのではなかったのか。
故郷への思い、自然との交わり、家族のあり方、地域のあり方、仕事とはなにか、生きることとはなにか、さまざまな問いを発しながらも、物語は静かに淡々と人々の暮らしぶりと時を刻む。
とても切なくて、ひと言ひと言が心に響く。
それでいてただ感傷的なわけではなく、ダーリヤその人の生き方にも似て、太くて丈夫な筋がきちんと通っている。
この先、何度でも繰り返し読みたくなるだろうと思わせる物語だった。
その印象的な名前が、近頃とみに衰えつつある私のカボチャ頭に残っていたのは、hackerさんのこのレビューを拝見して、私もぜひこの本を読もう!とメモをとったからだと気づいた。
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1970年代半ばに書かれたこの物語の舞台は、シベリアのアンガラ川のほとりにあるマチョーラ村。
水力発電事業の促進のためにダムの底に沈むことになったこの村では、移転作業が急ピッチで進められていて、残るは少しでも長くこの地に踏みとどまりたいと願っている年寄りばかり。
老人達のまとめ役でもあるダーリヤは、自分や友人たちがこの土地を離れてどうやって生きていけばいいのかと苦悶する一方で、村に愛着を感じながらも時流に逆らうことができずに町に移り住み気苦労を重ねている息子を心配し、町の生活にすっかりなじんで村の生活を見下しているかのような嫁にため息をつき、町でもあきたらずさらなる土地と喧噪をめざして飛び出そうとしている孫の行く末を案じる。
とはいえ決して頑ななわけではない。
彼女だってわかっているのだ。
息子の立場も嫁の気持ちも孫たちが置かれている状況も。
誰も後ろを振り返ってみる者などいねえ
みんなだまってまっしぐらに前を向いて走っている
自分の足下だって見る暇もねえ
まるで誰かに追いかけられているみたいだ
そんな中で彼女は一人、時の流れに逆らうかのように、大地を踏みしめ、木々のざわめきに耳を傾け、その地に眠る祖先の声を聴こうとする。
ダーリヤ、生命がある限りは生きるだよ。辛くても楽しくても、とにかく生きるんだ。せっかく生まれて来ただからな。悲しいことや口惜しいことがあってくたくたになっちまったとき、おらたちのところへ来たくなっても、駄目だぞ。おら達をもっとしっかりこの世に止めておくために、おら達がここで生きたっつう爪痕を残すために、おめえは頑張って生きるだよ。おら達のとこへ来そびれた者など今まで一人もいなかったんだし、これからもそんな間抜けはいねえだからな。
とうに亡くなった、父親の声がダーリヤの耳に届く。
だが彼女は自問する。
この世で1番理不尽なことは、樹であれ人間であれ、長生きをし過ぎて役立たずになり、他人の厄介になることではないのか。
樹ならばまだしも倒れて腐り、土の肥やしになるということもあるが、人間はどうだ。
今では畑の肥料は町から運ぶし、どんな知識でも本から吸収されるし、歌はラジオで覚える時代だ。
己の居場所は?自分たち年寄りが生きる意味はいったいどこにあるのだろうか?と。
同時に彼女は抗議する。
この田舎の村が水力発電の源となってようやく他人様の役にたつのだという意見に。
マチョーラ村はこれまでも、大地の恵みで人々を養い、村人たちだけでなく多くの人々の暮らしを支えてきたのではなかったのか。
故郷への思い、自然との交わり、家族のあり方、地域のあり方、仕事とはなにか、生きることとはなにか、さまざまな問いを発しながらも、物語は静かに淡々と人々の暮らしぶりと時を刻む。
とても切なくて、ひと言ひと言が心に響く。
それでいてただ感傷的なわけではなく、ダーリヤその人の生き方にも似て、太くて丈夫な筋がきちんと通っている。
この先、何度でも繰り返し読みたくなるだろうと思わせる物語だった。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2015-04-05 08:08
「え?まだやってたの?」と仰る方もおられるかもしれませんが
細々と続けています。ロシア東欧掲示板、手ぶらでもOKですw
よかったら遊びに来てください。
<本が好き!<ロシア・東欧>でお宝探し?!>
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