そうきゅうどうさん
レビュアー:
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長らく絶版だった本書は先頃、文庫で復刊されたが、その際、版元である早川書房が異例の「お詫び広告」を出したという、曰く付きの1冊。
飛鳥部勝則の『堕天使拷問刑』は2008年1月、早川書房からハヤカワ・ミステリワールドの1冊として刊行された。ちなみに、このレーベルからは高村薫の『マークスの山』や月村了衛の『機龍警察』シリーズなどが刊行されているが、大半は現在では版元品切れ(つまりは絶版)になっているようだ。そんな中、つい先頃、本書が文庫として再刊された。
本書を文庫で復刊するに当たって、版元である早川書房は異例の「お詫び広告」を出した。「こんな素晴らしい物語をこれまで多くの読者に届けることができず、申し訳ありませんでした」と。そして、その文庫本には「魔書、ここに屹立す!」と書かれた帯が付された。本書に対する版元の期待の高さが覗える。
本のカバー・ジャケットの格好良さは文庫版の方が上だが、私は本書を最初のハヤカワ・ミステリワールド版のハードカバーで読んだので、レビューに付けるジャケットもそれにしている。このジャケットは『堕天使拷問刑』というタイトルと全く合っていないように思われるかもしれないが、物語的にはこれで合っている。
本書がどういう小説なのかは、なかなか説明しづらいが、不可解な因習の残る閉ざされた集落を舞台にした本格謎解きミステリとも言えるし、オカルト趣味が横溢する奇想小説でもあるし、ボーイ・ミーツ・ガールによる青春小説とも読める。空前の大傑作だと絶賛する人もいるだろうし、最低のクソ小説だとコケ下ろす人もいるだろう。好きな人はとことん好きになり、嫌いな人はとことん嫌いになる──本書はそんな作品だ。
両親を亡くした中学1年生の如月タクマは、母の妹に引き取られて、母の実家がある町へとやって来る。その母の実家である大門家では先頃、当主の大造が密室の中で変死し、町の人たちは、大造が悪魔召喚の儀式の果てに呼び出した悪魔によって殺された、と噂していた。そしてタクマも学校で、クラスメートの一部からツキモノイリと呼ばれて、ひどいいじめを受ける。そんな中、タクマの周囲で殺人事件が起こり、それは過去に集落であった凄惨な事件ともつながっていく…。
重々しいタイトルに反して、語り手が中1という設定であるせいか、文章は素直で読みやすい。なので500ページ近い分量もさして気にならない。とはいえ、この語り自体にある仕掛けが施されている。この仕掛けには、明確に仕掛けであることが分かるものと、そうでないものがある。後者について、ネタバレにならないように気をつけながら少々述べると、それは「書かれていることは全て語り手の主観である」ということである。そして、それこそが本書を本書たらしめている最も重要な要素だと私は思う。
それとは別に、本書において特筆すべきは、第二部第十一章「オススメモダンホラー」だ。ここは物語の本筋とは全く関係ない、タクマと友達になった同級生の土岐不二男が、タクマのためにオススメのモダンホラーについてまとめたものである。こうした章は、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』の中で、ファイロ・ヴァンスが数学や科学についての蘊蓄を語る「数学と殺人」や、J・D・カーの『三つの棺』で、ギデオン・フェル博士が古今東西の密室殺人について詳細に分析した「密室講義」などの先例があるが、とにかくこの「オススメモダンホラー」には圧倒させられる。多分、ホラー小説読みを自認する人でも、ここに挙げられた作品の半分も読んだことはないだろう(ちなみに、ディーン・R・クーンツのベストを『戦慄のシャドウファイア』でも『ファントム』でもなく、『雷鳴の館』と書いているのはポイント高しww)。それにしても、ここにリストアップされている作品を全て読もうとしたら、近隣の図書館を総動員してもまず無理だろう。中1でこれだけの作品を読んでいるのだとしたら、不二男はまさにバケモノだ!
本書を文庫で復刊するに当たって、版元である早川書房は異例の「お詫び広告」を出した。「こんな素晴らしい物語をこれまで多くの読者に届けることができず、申し訳ありませんでした」と。そして、その文庫本には「魔書、ここに屹立す!」と書かれた帯が付された。本書に対する版元の期待の高さが覗える。
本のカバー・ジャケットの格好良さは文庫版の方が上だが、私は本書を最初のハヤカワ・ミステリワールド版のハードカバーで読んだので、レビューに付けるジャケットもそれにしている。このジャケットは『堕天使拷問刑』というタイトルと全く合っていないように思われるかもしれないが、物語的にはこれで合っている。
本書がどういう小説なのかは、なかなか説明しづらいが、不可解な因習の残る閉ざされた集落を舞台にした本格謎解きミステリとも言えるし、オカルト趣味が横溢する奇想小説でもあるし、ボーイ・ミーツ・ガールによる青春小説とも読める。空前の大傑作だと絶賛する人もいるだろうし、最低のクソ小説だとコケ下ろす人もいるだろう。好きな人はとことん好きになり、嫌いな人はとことん嫌いになる──本書はそんな作品だ。
両親を亡くした中学1年生の如月タクマは、母の妹に引き取られて、母の実家がある町へとやって来る。その母の実家である大門家では先頃、当主の大造が密室の中で変死し、町の人たちは、大造が悪魔召喚の儀式の果てに呼び出した悪魔によって殺された、と噂していた。そしてタクマも学校で、クラスメートの一部からツキモノイリと呼ばれて、ひどいいじめを受ける。そんな中、タクマの周囲で殺人事件が起こり、それは過去に集落であった凄惨な事件ともつながっていく…。
重々しいタイトルに反して、語り手が中1という設定であるせいか、文章は素直で読みやすい。なので500ページ近い分量もさして気にならない。とはいえ、この語り自体にある仕掛けが施されている。この仕掛けには、明確に仕掛けであることが分かるものと、そうでないものがある。後者について、ネタバレにならないように気をつけながら少々述べると、それは「書かれていることは全て語り手の主観である」ということである。そして、それこそが本書を本書たらしめている最も重要な要素だと私は思う。
それとは別に、本書において特筆すべきは、第二部第十一章「オススメモダンホラー」だ。ここは物語の本筋とは全く関係ない、タクマと友達になった同級生の土岐不二男が、タクマのためにオススメのモダンホラーについてまとめたものである。こうした章は、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』の中で、ファイロ・ヴァンスが数学や科学についての蘊蓄を語る「数学と殺人」や、J・D・カーの『三つの棺』で、ギデオン・フェル博士が古今東西の密室殺人について詳細に分析した「密室講義」などの先例があるが、とにかくこの「オススメモダンホラー」には圧倒させられる。多分、ホラー小説読みを自認する人でも、ここに挙げられた作品の半分も読んだことはないだろう(ちなみに、ディーン・R・クーンツのベストを『戦慄のシャドウファイア』でも『ファントム』でもなく、『雷鳴の館』と書いているのはポイント高しww)。それにしても、ここにリストアップされている作品を全て読もうとしたら、近隣の図書館を総動員してもまず無理だろう。中1でこれだけの作品を読んでいるのだとしたら、不二男はまさにバケモノだ!
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「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp
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- 出版社:早川書房
- ページ数:475
- ISBN:9784152088918
- 発売日:2008年01月25日
- 価格:2205円
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