星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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子供時代が 戦争だった かつての大人たちに
第二次大戦最中の、イギリス東部港町ガーマス。両親と暮らすチャス(チャシー)・マッギルの楽しみは、空薬莢や武器のかけらなど戦争コレクションを友達と競い合うことだ。ある日墜落したドイツの爆撃機から機関銃を取り出すことに成功し、友達と一緒に要塞を作ろうとする。
チャスのクラスメイト及び友人のラインナップは以下の通り。父親が墓場の管理人の「墓場っ子」ジョーンズ、周りが皆女の子らしくなったため友だちがいなくなってしまった年上のオードリー、父親を亡くして以来母親が男をとっかえひっかえしているため子供達の親から「家に遊びに行っちゃだめ」と言われるニッキー、伯母と暮らしていたが家出してしまう腕っぷしの強いクロッガー、チャスと戦争コレクションを争うボッザ。いじめっ子や女のコたちに馴染めない少女がいる辺りは現代と変わらないが、ニッキーやクロッガーの境遇、チャスの教師が先の大戦の従軍経験を持っている等は、戦時ならではだ。
冒頭シーンでチャズの父親が朝食時に「八百屋の娘が直撃弾を受けて体半分が庭で、もう半分は向かいの家で見つかった」という話を食卓でする。現代感覚なスプラッタ話を食事しながら話すのはえげつないが、当時はそれだけ死が身近にあったということだ。父親と息子が昨夜の戦闘の話で盛り上がるのも、当時なら特に珍しくない。殺人の感覚が麻痺していく戦場の兵士の話をよく聞くが、非戦闘員の国民も、戦争が日常になれば感覚が麻痺していく。そして周り皆が同じ感覚を共有しているので、平常心からかけ離れていく感覚が誰にもわからない。学校自体が爆撃され、授業が出来ない状態になれば、子供たちを教え導くことすら難しい。だから使い方もおぼつかない子供が銃を手にして機関銃をぶっ放すなんて事が起こる。
ダンケルク撤退後のイギリスなので、好き放題イギリスが爆撃されていた時期だ。近所の人間や家族を殺された者も多い。ドイツ戦闘機の欠片はコレクションとして欲しいが、生きたドイツ兵は敵だ。見えない敵だった時は、そう信じていられた。しかし本物のドイツ兵ルディと出会った時、チャズの心に変化が訪れる。「どうすべき」と大人が教えてくれたわけではない。むしろ大人達なら違う選択をしたはずだ。日本でも落下傘で降りて来た米兵を教え通り竹槍で殺した例がある。大人になった彼らは、かつての自分の行為を後悔するのだろうか。それとも正しかったと認めるか。或いは、そんな事があったと覚えてすらいないか。最後の選択が彼らにとっては幸せであるような気もする。
ガーマスは架空の町だが、ウェストールの故郷ウィンマスがモデル。少年達の体験は1929年生まれの作者の体験だろう。
2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。
ロバート・ウェストール作品
水深五尋
猫の帰還
海辺の王国
弟の戦争
チャスのクラスメイト及び友人のラインナップは以下の通り。父親が墓場の管理人の「墓場っ子」ジョーンズ、周りが皆女の子らしくなったため友だちがいなくなってしまった年上のオードリー、父親を亡くして以来母親が男をとっかえひっかえしているため子供達の親から「家に遊びに行っちゃだめ」と言われるニッキー、伯母と暮らしていたが家出してしまう腕っぷしの強いクロッガー、チャスと戦争コレクションを争うボッザ。いじめっ子や女のコたちに馴染めない少女がいる辺りは現代と変わらないが、ニッキーやクロッガーの境遇、チャスの教師が先の大戦の従軍経験を持っている等は、戦時ならではだ。
冒頭シーンでチャズの父親が朝食時に「八百屋の娘が直撃弾を受けて体半分が庭で、もう半分は向かいの家で見つかった」という話を食卓でする。現代感覚なスプラッタ話を食事しながら話すのはえげつないが、当時はそれだけ死が身近にあったということだ。父親と息子が昨夜の戦闘の話で盛り上がるのも、当時なら特に珍しくない。殺人の感覚が麻痺していく戦場の兵士の話をよく聞くが、非戦闘員の国民も、戦争が日常になれば感覚が麻痺していく。そして周り皆が同じ感覚を共有しているので、平常心からかけ離れていく感覚が誰にもわからない。学校自体が爆撃され、授業が出来ない状態になれば、子供たちを教え導くことすら難しい。だから使い方もおぼつかない子供が銃を手にして機関銃をぶっ放すなんて事が起こる。
ダンケルク撤退後のイギリスなので、好き放題イギリスが爆撃されていた時期だ。近所の人間や家族を殺された者も多い。ドイツ戦闘機の欠片はコレクションとして欲しいが、生きたドイツ兵は敵だ。見えない敵だった時は、そう信じていられた。しかし本物のドイツ兵ルディと出会った時、チャズの心に変化が訪れる。「どうすべき」と大人が教えてくれたわけではない。むしろ大人達なら違う選択をしたはずだ。日本でも落下傘で降りて来た米兵を教え通り竹槍で殺した例がある。大人になった彼らは、かつての自分の行為を後悔するのだろうか。それとも正しかったと認めるか。或いは、そんな事があったと覚えてすらいないか。最後の選択が彼らにとっては幸せであるような気もする。
ガーマスは架空の町だが、ウェストールの故郷ウィンマスがモデル。少年達の体験は1929年生まれの作者の体験だろう。
2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。
ロバート・ウェストール作品
水深五尋
猫の帰還
海辺の王国
弟の戦争
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:評論社
- ページ数:302
- ISBN:9784566012042
- 発売日:1980年01月01日
- 価格:1890円
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