星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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逞しき猫 か弱き人間 それでも戦争をするのは人間である
冒頭は「ロード・ゴート行方不明」という電報で留守を守る女性の所に警察がやってくる。ロード・ゴートとはイギリス海外派遣軍の司令官、第6代ゴート子爵ことジョン・ヴェレカーのことだ。海外派遣軍の司令官に就任し、フランスに派遣されたが、1940年5月からはじまったドイツ軍の西方電撃戦でドイツ装甲部隊の素早い進撃によりベルギー・北フランスで切り離されて孤立させられた。全滅の危機に晒されたが、ダンケルクの撤退に成功して英本土へ逃れた。この時一旦行方不明になったので警官が慌てたのだ。わかってみればロード・ゴートとは人間ではなく、その家で飼っている黒猫、それも雌猫の名前だった。
出征した主人の後を追って旅を始めたロード・ゴートは、戦禍のイギリス各地でさまざまな人と出会う。“帰還”というと、離れ離れになった家族を求めて走るラッシーを想起するが、ロード・ゴートは場所に戻りたいのではなく、飼い主の匂いを求めて移動する。しかし「猫の移動」というタイトルはいかにも訳がわからないので却下されたのか。“旅”でも良かったかも。
黒猫は、日本では某有名企業のトレードマークとなっているが、西洋ではラッキーアイテムだったり不幸のもとだったりする。イングランドでは黒猫が家に入ってきたり住み着いたりすると幸運がやってくると考えられているため、邪険な扱いは受けない。戦時なのでただでさえ食糧がないのにと飢えさせられたら悲惨だと思っていただけに、この扱いは安心。ロード・ゴートも不発弾の処理の側にいたり飛行機に乗ったりと戦争ならではの危険と隣り合わせの体験をしているが、戻ってきても子供を生んでもどこ吹く風でもとの家に戻ってくる。人間は旅によって成長したり変化する。実際飼い主は戦争を経て変わってしまった。動物のたくましさと人間のか弱さ。それでも戦争をするのは動物ほどのタフさを備えていないか弱い人間なのだ。
1989年度スマーティーズ賞。
ロバート・ウェストール作品
機関銃要塞の少年たち
水深五尋
海辺の王国
弟の戦争
出征した主人の後を追って旅を始めたロード・ゴートは、戦禍のイギリス各地でさまざまな人と出会う。“帰還”というと、離れ離れになった家族を求めて走るラッシーを想起するが、ロード・ゴートは場所に戻りたいのではなく、飼い主の匂いを求めて移動する。しかし「猫の移動」というタイトルはいかにも訳がわからないので却下されたのか。“旅”でも良かったかも。
黒猫は、日本では某有名企業のトレードマークとなっているが、西洋ではラッキーアイテムだったり不幸のもとだったりする。イングランドでは黒猫が家に入ってきたり住み着いたりすると幸運がやってくると考えられているため、邪険な扱いは受けない。戦時なのでただでさえ食糧がないのにと飢えさせられたら悲惨だと思っていただけに、この扱いは安心。ロード・ゴートも不発弾の処理の側にいたり飛行機に乗ったりと戦争ならではの危険と隣り合わせの体験をしているが、戻ってきても子供を生んでもどこ吹く風でもとの家に戻ってくる。人間は旅によって成長したり変化する。実際飼い主は戦争を経て変わってしまった。動物のたくましさと人間のか弱さ。それでも戦争をするのは動物ほどのタフさを備えていないか弱い人間なのだ。
1989年度スマーティーズ賞。
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:徳間書店
- ページ数:260
- ISBN:9784198609115
- 発売日:1998年09月01日
- 価格:1680円
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