rodolfo1さん
レビュアー:
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鬱屈し、停滞していた専業主婦の菜月の前に元彼の母親が現れ、彼女の同好会に誘われて主に男女を巡る様々な議題を取り上げて女同士で議論する。次第に菜月の生活にも波風が立ち、夫の光との仲もぎくしゃくし始める。
川上先生は不思議な作風の作家さんで、なんでもあの内田百閒先生の文体に影響を受けているそうです。さしずめこの作品などもそういわれてみればそういう所がありますね。芥川賞を取った作家さんの本を定期的に読んでいるのは川上先生と吉田修一先生と川上未映子先生くらいです。
片付けが苦手で、しょっちゅう考えがあちこちに飛ぶ菜月は、物事や考え方がきちんとしていないと気が済まない夫の光にやや鬱屈した物を感じていました。けもの道と菜月が呼ぶいつもの買い物道をたどって買い物をしているとある女に名前を呼ばれました。それは元彼の母親、土井母でした。土井母はなんで息子と別れたのかと尋ね、ふられたのだと菜月が答えると、菜月は息子を馬鹿にしていたから、ふられて驚いただろうとあっさり見抜き、菜月は図星を刺されて驚きました。
土井母は、自分達がやっている、これでよろしくて同好会に参加しろと菜月を誘いました。そして、菜月はカラオケで伴奏に合わせるのは苦手な癖に、床に落ちた食べ物を平気で食べるだろうとまた言い当て、菜月は驚愕しました。。。菜月は同好会に参加しました。メンバーは土井母とフルタイム主婦の香子、眼鏡の会社員雛子でした。会は普通のレストランで催され、食事をしながらある議題についてみんなで話し合うという物でした。その日の議題は、母親が独身の息子の部屋を訪れると、息子の友達と女が寝ていた。こういう場合にはどうしたら良いかと言うものでした。
土井母に意見を求められた菜月は、一旦部屋を出てから7分ほどしてピンポンを鳴らすと答え、7分という時間について議論され、次に女がすぐにはくであろうパンツについての議論になりました。更に部屋に居た男がいい男かどうかで意見が交わされ、土井母は会の記録帳に、動議2題、パンツ、いい男、と書き込みました。いつの間にか菜月はしっかり会に参加し、夕食もしっかり摂って夜10時に帰宅しました。。。
もうすぐ菜月と光の7回目の結婚記念日です。菜月は結婚式の時、光が一切母親に逆らわず、結婚式はすべて光抜きで菜月1人の考えで行われ、そのことごとくに義母が反対を唱えた事を思い出しました。光は記念日を大事にします。しかし菜月は、自分の誕生日プレゼントは家計から出すのに、光へのプレゼントは菜月のバイトの給料から出すというルールに違和感を持っていました。菜月は結婚は退屈だと思い、次の会の議題にしました。
次の会にはみずほが加わりました、土井母は、色っぽいみずほは4回結婚していて子供が5人いて、みな父親が違うのだと菜月に説明し、菜月はどういう基準でメンバーを選んでいるのだろうと思いました。その日の最初の議題は機嫌のよすぎる男についてでした。雛子は、その男はものすごく女の話をよく聞く男で、全てに卒が無いと言いました。土井母は、そういう男は怖いと言い、雛子はその男はよく、ふと気づくと耳から砂がさらさらこぼれ落ち続ける夢を見るのだと言ったと言いました。。。
光の妹郁が突然現れ、義母と不仲になったからしばらく泊めてくれと言い出しました。光の弟で郁の兄亮の妻多紀と義母がうまくいっていないと言いました。郁が家に来てから1ヶ月半が過ぎ、菜月は会に参加しました。その日の議題はコンプレックスでした。香子は、夫が思っている家事分担の問題点について夫側を糾弾し。。。みずほは、夫の家族が気に障るのは、夫の事を妻が好きだからだと言い、納得した菜月でした。。。
家に戻ると、光と郁は、義母が同居しにやってくる、と打ち明けました。菜月は、光が郁とは違って、自分には他人と同じきちんとした喋り方をしていた事に気づきました。義母は巨大なスーツケースを持って現れました。義母は、菜月に対して悪遠慮をしない、と宣言し、多紀との間にあった遠慮について語り、自分が遠慮をやめて自分を取り戻せば多紀ともまた暮らせるだろうと言いました。
この日の会は、同性の上司が大浴場で前を隠さずに近寄ってきたらどうするか、というテーマでした。みずほはかつて女子中の教師をしていた頃、同じような経験をしたと言い、更に皆は会社にあるどうでもいいような悪いような謎のルールの事を話し合い、何故か香子のフルタイム主婦についての質問になりました。香子はフルタイムと名乗るのは、家事やセックスや家計の経営などの技術を上達させる心構えの問題だと言い、土井母は、セックスは家事労働だったのか、と感想を述べ、香子は、セックスは純然たる労働であって、自分は労働が大好きだと明言しました。。。
義母が同居しだして2ヶ月になりました。光は元気がなくなり、無口になり、げっそり痩せました。この日の会は土井母とみずほと菜月だけでした。思わず菜月は2人に義母との同居の事を打ち明け、みずほは、母親と息子の間には長い甘い時間があったのだと言い、土井母は、逆に自分と息子はあまりしっくりいっていなかったと言いました。そういえば菜月は、自分は恋愛に対してあまり思い入れがなかったと気づき。。。
その夜帰宅すると光は菜月に、菜月が嫌がっているから家に帰ってくれと義母に言ったと言いました。憤慨するべき菜月でしたが、光に、最近光に起こったくだらない話を聞かせられる内に笑い出してしまい。。。翌朝義母は菜月に、そんなに自分が嫌いかと尋ね、菜月は思わずそれは光の勘違いだと答え、自分はこの家で一人で淋しかったのだと言いました。家族に囲まれて暮らしていた義母がうらやましいと言い、義母は自分と違って皆に必要とされている、と言いました。
その一ヶ月後の会で、顛末を打ち明け、義母が家を出て来たのは、昔ほど家族に必要とされなくなっていたからではないかと考えたのだと皆に言いました。結局それからも義母は同居を続けていました。菜月は、そんな義母とバランスを取りながら暮らす事が自分の仕事なのだと考え。。。ある日義母は家中の掃除を始めて家をぴかぴかにし、夜は光の好物の蟹鍋を作って、光は、久しぶりに蟹を食べたと言い、菜月も義母に料理を習えばいいと言い放ち、菜月は激昂しました。思わず最近家計が赤字なのだと嫌味を言い。。。
菜月は会に助言を求め、会のみんなは結局すべては金の問題だと言いました。郁と義母は家計に一銭も入れていなかったのでした。義母との対決を予想して暗い気持ちで家に帰りましたが、義母がおろおろしながら電話を寄越し、義父が脳梗塞で倒れたと言いました。光は電話に出ませんでした。義母を連れて病院に向かうと、亮と多紀が待っていました。義母はそのまま亮と多紀の家に一緒に帰りました。しばらく菜月は毎日病院に通いましたが、日曜は行かなくなりました。日曜には多紀が義母を連れて見舞いに来、自分は場違いだと思ったのでした。
しかし義母は、同じ病室の身寄りのない患者の洗濯物を多紀にさせていると言い、義母の立ち位置がわからなくなった菜月でした。。。あまりのやるせなさに思わず菜月は土井母に電話し、2人で会いました。しかし人と関わるのはそもそも難儀な事だ、自分もその難儀さに立ち向かわなければならないのだと気づき、土井母と別れました。しかし土井母と会った事で何かが吹っ切れ、菜月は病院へ行くのを止めました。義母からは、多紀の都合がついたからもう見舞いに来なくて良い、家族だから遠慮するなと言われ、義母と自分は家族なのかと訝しんだ菜月でした。
光に、自分達は夫婦であるがまだ家族ではない、子供が出来れば家族になれるのかと聞き、光は、自分にはよくわからない、ちゃんとできなくてごめんと謝りました。。。五ヵ月ぶりに顔を出した会の今日の議題は夫婦でした。さまざまな事例が取り上げられ、みずほは、どうして外では社会人が出来ている妻や夫が家庭内では些細な事で打撃を受けたり険悪な仲になるのだろうと尋ね、菜月は慎重に答え始めました。。。ついに菜月は。。。
いやこれは面白い小説でした。鬱屈し、停滞していた専業主婦の菜月の前に元彼の母親が現れ、彼女の同好会に誘われ、主に男女を巡る様々な議題を取り上げて女同士で議論します。議論が深まると共に、菜月の生活にも波風が立ち、夫の光との仲もぎくしゃくし始めるのでしたが、会の導きを得て、次第に菜月は自己を変革しようと試みます。主人公と脇役のキャラクターが鋭く立っていて、プロットも秀逸です。まさに内田百閒ばりの飄々とした文体で、ともすれば深刻になる筈の事件もさらさらと書き下されます。特に会の議題として取り上げられる様々な事例が個性的で、物語は全く飽きる事なく進行します。最後のトリック及びそれに続く意外などんでん返しが終章を飾り、名作、センセイの鞄以来の大当たりであったと思いました。
片付けが苦手で、しょっちゅう考えがあちこちに飛ぶ菜月は、物事や考え方がきちんとしていないと気が済まない夫の光にやや鬱屈した物を感じていました。けもの道と菜月が呼ぶいつもの買い物道をたどって買い物をしているとある女に名前を呼ばれました。それは元彼の母親、土井母でした。土井母はなんで息子と別れたのかと尋ね、ふられたのだと菜月が答えると、菜月は息子を馬鹿にしていたから、ふられて驚いただろうとあっさり見抜き、菜月は図星を刺されて驚きました。
土井母は、自分達がやっている、これでよろしくて同好会に参加しろと菜月を誘いました。そして、菜月はカラオケで伴奏に合わせるのは苦手な癖に、床に落ちた食べ物を平気で食べるだろうとまた言い当て、菜月は驚愕しました。。。菜月は同好会に参加しました。メンバーは土井母とフルタイム主婦の香子、眼鏡の会社員雛子でした。会は普通のレストランで催され、食事をしながらある議題についてみんなで話し合うという物でした。その日の議題は、母親が独身の息子の部屋を訪れると、息子の友達と女が寝ていた。こういう場合にはどうしたら良いかと言うものでした。
土井母に意見を求められた菜月は、一旦部屋を出てから7分ほどしてピンポンを鳴らすと答え、7分という時間について議論され、次に女がすぐにはくであろうパンツについての議論になりました。更に部屋に居た男がいい男かどうかで意見が交わされ、土井母は会の記録帳に、動議2題、パンツ、いい男、と書き込みました。いつの間にか菜月はしっかり会に参加し、夕食もしっかり摂って夜10時に帰宅しました。。。
もうすぐ菜月と光の7回目の結婚記念日です。菜月は結婚式の時、光が一切母親に逆らわず、結婚式はすべて光抜きで菜月1人の考えで行われ、そのことごとくに義母が反対を唱えた事を思い出しました。光は記念日を大事にします。しかし菜月は、自分の誕生日プレゼントは家計から出すのに、光へのプレゼントは菜月のバイトの給料から出すというルールに違和感を持っていました。菜月は結婚は退屈だと思い、次の会の議題にしました。
次の会にはみずほが加わりました、土井母は、色っぽいみずほは4回結婚していて子供が5人いて、みな父親が違うのだと菜月に説明し、菜月はどういう基準でメンバーを選んでいるのだろうと思いました。その日の最初の議題は機嫌のよすぎる男についてでした。雛子は、その男はものすごく女の話をよく聞く男で、全てに卒が無いと言いました。土井母は、そういう男は怖いと言い、雛子はその男はよく、ふと気づくと耳から砂がさらさらこぼれ落ち続ける夢を見るのだと言ったと言いました。。。
光の妹郁が突然現れ、義母と不仲になったからしばらく泊めてくれと言い出しました。光の弟で郁の兄亮の妻多紀と義母がうまくいっていないと言いました。郁が家に来てから1ヶ月半が過ぎ、菜月は会に参加しました。その日の議題はコンプレックスでした。香子は、夫が思っている家事分担の問題点について夫側を糾弾し。。。みずほは、夫の家族が気に障るのは、夫の事を妻が好きだからだと言い、納得した菜月でした。。。
家に戻ると、光と郁は、義母が同居しにやってくる、と打ち明けました。菜月は、光が郁とは違って、自分には他人と同じきちんとした喋り方をしていた事に気づきました。義母は巨大なスーツケースを持って現れました。義母は、菜月に対して悪遠慮をしない、と宣言し、多紀との間にあった遠慮について語り、自分が遠慮をやめて自分を取り戻せば多紀ともまた暮らせるだろうと言いました。
この日の会は、同性の上司が大浴場で前を隠さずに近寄ってきたらどうするか、というテーマでした。みずほはかつて女子中の教師をしていた頃、同じような経験をしたと言い、更に皆は会社にあるどうでもいいような悪いような謎のルールの事を話し合い、何故か香子のフルタイム主婦についての質問になりました。香子はフルタイムと名乗るのは、家事やセックスや家計の経営などの技術を上達させる心構えの問題だと言い、土井母は、セックスは家事労働だったのか、と感想を述べ、香子は、セックスは純然たる労働であって、自分は労働が大好きだと明言しました。。。
義母が同居しだして2ヶ月になりました。光は元気がなくなり、無口になり、げっそり痩せました。この日の会は土井母とみずほと菜月だけでした。思わず菜月は2人に義母との同居の事を打ち明け、みずほは、母親と息子の間には長い甘い時間があったのだと言い、土井母は、逆に自分と息子はあまりしっくりいっていなかったと言いました。そういえば菜月は、自分は恋愛に対してあまり思い入れがなかったと気づき。。。
その夜帰宅すると光は菜月に、菜月が嫌がっているから家に帰ってくれと義母に言ったと言いました。憤慨するべき菜月でしたが、光に、最近光に起こったくだらない話を聞かせられる内に笑い出してしまい。。。翌朝義母は菜月に、そんなに自分が嫌いかと尋ね、菜月は思わずそれは光の勘違いだと答え、自分はこの家で一人で淋しかったのだと言いました。家族に囲まれて暮らしていた義母がうらやましいと言い、義母は自分と違って皆に必要とされている、と言いました。
その一ヶ月後の会で、顛末を打ち明け、義母が家を出て来たのは、昔ほど家族に必要とされなくなっていたからではないかと考えたのだと皆に言いました。結局それからも義母は同居を続けていました。菜月は、そんな義母とバランスを取りながら暮らす事が自分の仕事なのだと考え。。。ある日義母は家中の掃除を始めて家をぴかぴかにし、夜は光の好物の蟹鍋を作って、光は、久しぶりに蟹を食べたと言い、菜月も義母に料理を習えばいいと言い放ち、菜月は激昂しました。思わず最近家計が赤字なのだと嫌味を言い。。。
菜月は会に助言を求め、会のみんなは結局すべては金の問題だと言いました。郁と義母は家計に一銭も入れていなかったのでした。義母との対決を予想して暗い気持ちで家に帰りましたが、義母がおろおろしながら電話を寄越し、義父が脳梗塞で倒れたと言いました。光は電話に出ませんでした。義母を連れて病院に向かうと、亮と多紀が待っていました。義母はそのまま亮と多紀の家に一緒に帰りました。しばらく菜月は毎日病院に通いましたが、日曜は行かなくなりました。日曜には多紀が義母を連れて見舞いに来、自分は場違いだと思ったのでした。
しかし義母は、同じ病室の身寄りのない患者の洗濯物を多紀にさせていると言い、義母の立ち位置がわからなくなった菜月でした。。。あまりのやるせなさに思わず菜月は土井母に電話し、2人で会いました。しかし人と関わるのはそもそも難儀な事だ、自分もその難儀さに立ち向かわなければならないのだと気づき、土井母と別れました。しかし土井母と会った事で何かが吹っ切れ、菜月は病院へ行くのを止めました。義母からは、多紀の都合がついたからもう見舞いに来なくて良い、家族だから遠慮するなと言われ、義母と自分は家族なのかと訝しんだ菜月でした。
光に、自分達は夫婦であるがまだ家族ではない、子供が出来れば家族になれるのかと聞き、光は、自分にはよくわからない、ちゃんとできなくてごめんと謝りました。。。五ヵ月ぶりに顔を出した会の今日の議題は夫婦でした。さまざまな事例が取り上げられ、みずほは、どうして外では社会人が出来ている妻や夫が家庭内では些細な事で打撃を受けたり険悪な仲になるのだろうと尋ね、菜月は慎重に答え始めました。。。ついに菜月は。。。
いやこれは面白い小説でした。鬱屈し、停滞していた専業主婦の菜月の前に元彼の母親が現れ、彼女の同好会に誘われ、主に男女を巡る様々な議題を取り上げて女同士で議論します。議論が深まると共に、菜月の生活にも波風が立ち、夫の光との仲もぎくしゃくし始めるのでしたが、会の導きを得て、次第に菜月は自己を変革しようと試みます。主人公と脇役のキャラクターが鋭く立っていて、プロットも秀逸です。まさに内田百閒ばりの飄々とした文体で、ともすれば深刻になる筈の事件もさらさらと書き下されます。特に会の議題として取り上げられる様々な事例が個性的で、物語は全く飽きる事なく進行します。最後のトリック及びそれに続く意外などんでん返しが終章を飾り、名作、センセイの鞄以来の大当たりであったと思いました。
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こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。
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- 出版社:中央公論新社
- ページ数:357
- ISBN:9784122057036
- 発売日:2012年10月23日
- 価格:600円
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