レビュアー:
▼
“みっちゃん”にとって一番に大切なのは、本や音楽や絵と想像する楽しさであった。追悼、犬養道子さん。
7月24日、犬養道子さんが亡くなった。1921年(大正10)生まれ、享年96才。評論家、エッセイスト、数十年に渡る難民支援活動と各方面に業績をお持ちのこの方は、犬養毅首相の孫娘である。本書は、まだ幼い少女“みっちゃん”の目に映る犬養家の人々とその周辺を描いたエッセイで、祖父を失った5.15事件についても語られている。
みっちゃんは小学校(学習院)へ上がるまで、君が代も国旗も「陛下」が誰かも知らなかった。でも、トルストイやダ・ヴィンチやベートオヴェンのことなら知っていた。先生にあきれられましたとも!だけど自然にそうなってしまったのだ。小説家の父・犬養健と妻の仲子は、いつも娘に本物の芸術を見せたり聞かせたりしていたから。原稿が仕上がらなくても蓄音機をかけ本を朗読し語りかける父、ぬいぐるみに人格と過去まで作り上げて声色で演じてみせる母。彼らにとって大切なのは美しいものと想像力と精神の自由で、君が代とか国旗の事はうかつにも教え忘れていたのだ。
この家にはお友だちがたくさんいる。てっきりお相撲取りの卵だと思っていた岸田(劉生)さん、白樺派の人たち、目のギョロッとして線の細い「トンボの人」が川端康成だったりする。近所の子が言ってた「ちゃんころ」って何のこと?パパは、そんな子たちと遊ぶんじゃないと言った。だからみっちゃんの友だちは大人ばかりで、押入れのふすまを鋏で切って開けた窓から(パパはカーテンも作ってくれた)、みんなの楽しそうな語らいを聞いていた。しかし、犬養のおばあ様が訪ねてくる日には家からいつもの楽しさが消えてしまう。
生みの母を追い出したおばあ様とパパとの間には確執があった。それでもパパは、困難な時期に首相を拝命する父親を支えるため筆を折り、義母が権勢を振るう実家に戻り政治家になった。また、裕福で朗らかで優しい母方の祖母(後藤象二郎の娘)は詐欺にあい破産する。家から明るさが失われ、やがて5.15事件が起きる。その折に首相公邸にいたママは、「義父をむざむざと殺させた」との非難を一生背負わなければならなかった。両親それぞれの苦悩を敏感に察知し、なぜそうなったのかを考えながら、みっちゃんは大人になってゆく。
みっちゃんの人を見る目の鋭さに驚く。「学のある植木屋だ」と思っていた犬養毅おじい様はじめ、昭和初期を生きた人々の姿が生き生きと鮮やかだ。やがて軍国主義一辺倒に黒く塗りつぶされてゆく日本。彼女を取り巻いていた「花々と星々」が、芸術文化の香りと自由の風が、ひときわの輝きを帯びて通りすぎてゆく。
みっちゃんは小学校(学習院)へ上がるまで、君が代も国旗も「陛下」が誰かも知らなかった。でも、トルストイやダ・ヴィンチやベートオヴェンのことなら知っていた。先生にあきれられましたとも!だけど自然にそうなってしまったのだ。小説家の父・犬養健と妻の仲子は、いつも娘に本物の芸術を見せたり聞かせたりしていたから。原稿が仕上がらなくても蓄音機をかけ本を朗読し語りかける父、ぬいぐるみに人格と過去まで作り上げて声色で演じてみせる母。彼らにとって大切なのは美しいものと想像力と精神の自由で、君が代とか国旗の事はうかつにも教え忘れていたのだ。
この家にはお友だちがたくさんいる。てっきりお相撲取りの卵だと思っていた岸田(劉生)さん、白樺派の人たち、目のギョロッとして線の細い「トンボの人」が川端康成だったりする。近所の子が言ってた「ちゃんころ」って何のこと?パパは、そんな子たちと遊ぶんじゃないと言った。だからみっちゃんの友だちは大人ばかりで、押入れのふすまを鋏で切って開けた窓から(パパはカーテンも作ってくれた)、みんなの楽しそうな語らいを聞いていた。しかし、犬養のおばあ様が訪ねてくる日には家からいつもの楽しさが消えてしまう。
生みの母を追い出したおばあ様とパパとの間には確執があった。それでもパパは、困難な時期に首相を拝命する父親を支えるため筆を折り、義母が権勢を振るう実家に戻り政治家になった。また、裕福で朗らかで優しい母方の祖母(後藤象二郎の娘)は詐欺にあい破産する。家から明るさが失われ、やがて5.15事件が起きる。その折に首相公邸にいたママは、「義父をむざむざと殺させた」との非難を一生背負わなければならなかった。両親それぞれの苦悩を敏感に察知し、なぜそうなったのかを考えながら、みっちゃんは大人になってゆく。
みっちゃんの人を見る目の鋭さに驚く。「学のある植木屋だ」と思っていた犬養毅おじい様はじめ、昭和初期を生きた人々の姿が生き生きと鮮やかだ。やがて軍国主義一辺倒に黒く塗りつぶされてゆく日本。彼女を取り巻いていた「花々と星々」が、芸術文化の香りと自由の風が、ひときわの輝きを帯びて通りすぎてゆく。
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:中央公論新社
- ページ数:327
- ISBN:9784122052901
- 発売日:2010年02月25日
- 価格:900円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。




















