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星落秋風五丈原
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伝説のギャング 自らを語る
 オーストラリアは、イギリスの流刑植民地とされた。しかし住民は必ずしも囚人ばかりではなく、開拓のためやってきた者もいた。本編の語り手兼主人公のネッドの父親レッド・ケリーは家畜泥棒による元囚人、母親エレンの生家クインもアイルランド系流刑者の一族のため、警察から厳しい監視下に置かれていた。囚人は罪を償えば、一般人として普通の生活を送れるという考えは甘い。囚人監視のために送られた軍隊が地主階級となり、土地と羊を専有して囚人を労働力として私物化した。鉄道や銀行といった流通と経済のインフラが整い、オーストラリアは牧羊業中心の経済からの転換と発展が徐々に進んでいたが、元囚人とその子孫は恩恵を受けることができない白人の最下層であり、ほとんどの者が厳しい生活を送っていた。多くの給料をもらえる仕事につけるわけではなし、土地もなし、勢い彼等は犯罪に向かわざるを得ない。

 貧しいアイルランド移民の子ネッド・ケリーは、幼いころから獄中の父にかわり、母と6人の姉弟妹を支えてきた。父の死後、母はネッドを山賊ハリー・パワーに託す。だがそのせいで、ネッドはわずか15歳で馬泥棒の共犯容疑で逮捕されることになった。出所したネッドは、美しい娘メアリーと出会い恋に落ちるが、ようやくつかんだ幸せも長くは続かない。横暴な警察は、難癖をつけてはネッドや家族を投獄しようとしてくる。いまや、ネッドと弟のダン、二人の仲間たち“ケリー・ギャング”は、国中にその名を轟かすお尋ね者となっていた。あまりの理不尽さに、遂にネッドは仲間と共に立ち上がる。

 今なお義賊として人気が高く、映画化もされているネッド・ケリー。彼がまだ見ぬ娘へ綴った手紙を通して描く設定になっている。学校などろくに行っていない彼が書いた文章は、翻訳文も平仮名が多い文体になっている。原文はもっと読みづらかったそうだ。犯してもいない罪で投獄され、罰金を払わされ、更に貧しくなる。大黒柱の父はなく、母は次々と生活力の糧となるパートナーを得るが、彼等もまた新たな大黒柱にはならない。長男として母親や家族を守ろうとしたネッドの責任感や、理不尽への憤りが、一人称でダイレクトに感情がぶつけられているため、読者の感情に訴える力は強い。


2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。
    • 処刑前日のネッド・ケリー
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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