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星落秋風五丈原
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オーストリアのオスカル
 1864年ウィーン。作曲家にして合唱団の指揮者であるヨハネス=ブラームスは、弟子のアマリエから、話があるから宮廷歌劇場に来て欲しいと頼まれる。彼女はワーグナー作オペラ『トリスタンとイゾルデ』でイゾルデを演じる事になっていた。ところがブラームスにあるものを渡した後で、アマリエは舞台上で不審な死を遂げる。更にユダヤ人の富豪ロスチャイルドから、亡くなったはずのロベルト=シューマンを見たと聞かされて…。

 地位も富もある権力者側Vs名声はあるけど政治的には非力音楽家という対立構造と、本意にあらず探偵役を務める主人公が音楽家である事、そして故人が関係している点は『モーツァルトは子守唄を歌わない』と同じ。但し、主人公のキャラクターはだいぶ違う。といっても世間一般に知られている両者の性格自体が元々違うのだから仕方がない。『モーツァルト…』では、「寄るな触るな切るぞ」と言わんばかりの危うさがある世渡り下手のベートーヴェンを、如才ない弟子のチェルニーがカヴァーしていたが、今回ブラームスには相方がいない。そのため権力者におもねるおべっか使いや、皮肉をまき散らす偏屈という極端に走らず、マイルドな性格になっている。その分、脇役ワーグナーの書き方がどぎつい。かなり傲岸不遜な人物に描かれている。親友の妻と姦通し、後に再婚。自分に心酔する王に借金を払わせ、バイエルン王国を傾けた。そんな風評が後世に知れ渡っているワーグナーに毒を向けた方が、拒絶されにくいと見たのか。ヒロイン役はクリスタ・フォン・アムロート。王妃付きの近衛騎兵連帯の大尉で、伯爵令嬢。軍服をまとっているとなると、まるでフランスのマリー・アントワネットと対で語られた『ベルばら』のオスカルみたい。但し、ウィーンのオスカルはピアノをたたき壊し、オペラ歌手への転職も可能な才能の持ち主。気が強く、好意を素直に現せない性格と、森作品のヒロイン独特の言い回しで読者を唖然とさせる。今回のキメは何といってもこれ。
怒りという火にコーヒーという油を注いでしまった。
あなたが言うからキマルんです、はい。

ユダヤ人の富豪ロスチャイルドや、『カフェ・デーメル』で有名なデーメル、ハンス・フォン・ビューロー、とびきりの有名人エリザベート王妃ら歴史上の人物が登場し、史実に伝えられる以外の素顔を見せてはくれるのだが、真相が明らかになった時のカタルシスについては、個人的には『モーツァルト…』の際の面白さを越えるものではなかった。

森雅裕作品 ベートーヴェンシリーズ
ベートーヴェンな憂鬱症
モーツァルトは子守唄を歌わない
マンハッタン英雄未満
森雅裕作品
流星刀の女たち
いつまでも折にふれて・さらば6弦の天使‐いつまでも折にふれて2
蝶々夫人に赤い靴(エナメル)
平成兜割り
鉄の花を挿す者
さよならは2Bの鉛筆
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2337 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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