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紅い芥子粒
レビュアー:
「ヘンゼルとグレーテル」の魔女が語る。魔女の自叙伝。
ヘンゼルとグレーテルのお話を知らない人はないだろう。

ヘンゼルとグレーテルのきょうだいが、継母に森へ捨てられてしまう。
幼いきょうだいが、森の中でみつけたのは、お菓子の家。
そこは、腰の曲がった魔女のすみかで…… 、というお話。

魔女は、子どもを食べる恐ろしい悪者だ。
ヘンゼルとグレーテルの機転で、かまどで焼かれてしまって、ああ、よかった!
幼い読者は、最後のページで火だるまになった魔女の画を見て、ほっと胸をなでおろすことだろう。

だが、しかし。
魔女に近い年齢になって読めば、感想もちがってくるというものだ。
この魔女は、どうして森の中で、ひとりぼっちで暮らしていたのだろう?
ほんとうに子どもの肉を食べたかったのだろうか?
そもそも、この人は、人生のさいしょから、魔女だったのだろうか?

火だるまになった魔女の画を見ていると、次から次へと疑問がわいてくる。

「逃れの森の魔女」は、ヘンゼルとグレーテルにやっつけられた魔女の物語だ。
魔女の自叙伝ともいえる。

彼女は、最初から魔女だったわけではない。
ただ、村では異端視される条件をいくつかもっていた。
よそ者だったこと。
私生児の母だったこと。
容姿が醜かったこと。
文字が読めたこと。
中世のヨーロッパでは、文字は支配級のものだった。貧しい村の女が、文字を読めるなんて、それだけでも異端視されるに十分だっただろう。

彼女は、腕のいい産婆であり、薬草の知識もあった。
村のあの子も、この子も、彼女が取り上げた子どもだった。
彼女には、自分は神につかわされたものだという自負があった。
だが、それは自惚れという罠だったかもしれない。

やがて、彼女は、病気の治療もするようになる。
医術が科学よりも、呪術に近かった時代、それは悪魔の力を借りることでもあった。
彼女は、魔術を学び、魔術師となった。
貴族や役人の病をいやし、その報酬に宝石をもらった。
世俗の富には関心はない、ただ美しいものがすきなだけだと彼女はいうが、ほんとうにそれだけだったろうか。
そして、ついに悪魔の罠にはまった。
それは、人間の欲という罠だったのかもしれない……

彼女はついに魔女にされてしまう。
火あぶりの炎から、火蜥蜴に姿を変えて、森へ逃げた。
ヘンゼルとグレーテルに出会ったあの森へ……

魔女の名誉のために、ここに書く。
魔女は、子どもたちを食べたいなんて思わなかった。
子どもを焼いて食べるくらいなら、自分が焼かれて死んだほうがましだと思ったのだ。

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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:559 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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