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ゆうちゃん
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ナチスの蛮行で有名な第二次世界大戦の収容所の体験記。著者は精神分析医で、フロイトの弟子。その彼は、収容所の生活を心理的に分析した。こんな状況で自分や周囲を客観的に振り替えられることが奇蹟のように思える
これも読書会「やりなおし世界文学」に投稿しようと思って読んだ本。この読書会が始まる以前からこのサイトで多数の書評を読み、そのうち読みたいと思っていた本でもある。

原題は「心理学者、強制収容所を体験する」で、著者フランクルはウィーン在住のユダヤ人であり、オーストリア併合の後、ナチスによって収容所に入れられた人物である。本書は原著者が一度大きな改訂をしており、日本語の「夜と霧」の題名は、この新版ではなく旧版の日本語訳者が命名したものである。「これは夜陰に乗じ、霧に紛れて人々がいずこともなく連れ去られ、消え去った歴史的事実を表現する言い回し」だそうだ。新しい訳者は旧版の日本語題名を尊重した。著者は本書を事実の報告ではなく、体験記だと言っている。もう少し言えば収容者の(そして末尾に少しだけ監視者の)心理分析である。
被収容者の心理を 「施設に収容される段階、まさに収容所生活そのものの段階、そして収容所からの出所ないし解放の段階」に分けて記述しているが、一番長いのは収容所生活そのものの段階であり、出所ないし解放の段階はわずか10頁である。
最初の収容の段階では、恩赦の妄想が起きる。希望に縋り付くと言っても良い。この妄想が事実によりひとつひとつ消えてゆくと、失うものがなくなりユーモアの感覚が起きる。著者は実際、先輩から一緒に収容された者たちの中で「問題になる(ガス室に送られる)のは、あなただろう」と言われて微笑んだそうだ。これはユーモアなのか・・・、しかしそう言われて微笑むしかない、と書かれればその通りだと思う。
収容所生活では、まず自己防衛のために感情の喪失が起きる。そして苦痛も感じなくなる。この辺は矛盾もあるように思う。愚弄を伴う暴力は苦痛だとあるし、政治や宗教への関心は失わないとあった。また、妻との語らいを想像するなど内面への逃避、芸術や自然の美しさへの感動の描写もある。
愛する妻が生きているか死んでいるかわからなくてもどうでもよい。それは愛する妻への思いの、愛する妻の姿を心の中に見つめることの妨げにはならなかった(63頁)。
被収容者の内面が深まると、たまに芸術や自然に接することが強烈な経験となった。この経験は世界や心底恐怖すべき状況を忘れさせてあまりあるほど圧倒的だ(64頁)。

時には被収容者仲間から離れ孤独になりたいと思うこともあった。収容所生活は、刻一刻の決断の時で、その判断の結果がすぐ問われることもある。悪くすれば死である。また何時までと言う期限もなく当然空間的な拘束もあって、人々は絶望し、自殺願望を持った。第二段階の末尾には、このような反応を心理学的にいかに克服してゆくか、が語られる。
収容所の生活にも意味はある。そこに唯一残された、生きることを意味あるものにする可能性は、自分のありようががんじがらめに制限されたなかでどのような覚悟をするかという、まさにその一点にかかっていた(112頁)。

著者がどのように意味づけしたかは、本書を読んでみて欲しい。
監視者の心理、解放後の心理分析も、短いながらも興味深い部分である。収容所生活は解放されて終わりではないらしい。これは戦争に行った者が普段の生活にうまく順応できないことと照応するのだろう。

短いが、こちらも重たい本である。著者は、収容所生活を通じて冷静だったが、運にも恵まれて生き延びた。実際、読んでみると「幸運に恵まれた」逸話がたくさんあり、よく生き残ったものだと思う。日常生活でもどのように過ごすか、どのように判断するかで生死が分かれることが無いとは言えないが、普通それは意識されない。意識されない理由は生死を分けるような選択が非常に稀だからだ。そういう意味では収容所生活は肉体的のみならず、単に辛いとか、ひもじいとか言った一般的な負の感情とは別な意味で、精神的にも非常に過酷な生活である。著者は、そんな中で収容所生活に絶望せずにいかに生き延びるか説いているが、ちょっと自分には出来そうもないことだ。著者はきっと心も強かっただろうと推測される。
これは第二次世界大戦当時の話だが、今も世界でこのような収容所的生活が存在するのだろう。この本を読んで、自分がそう言った目に遭わないようにと思うだけではなく、世界からそのような生活が無くなってほしいと切に思う。本書は主としてユダヤ人の強制収容所について書かれた本ではあるが、ユダヤ人と言う言葉は2か所しか出てこない(主に被収容者と言う表現で書かれている)。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1685 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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