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Wings to fly
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心優しく機智に富む男、ロンドンの夢見るサラリーマン、チャールズ・ラムの傑作随筆集。
チャールズ・ラムは18世紀にロンドンで生まれ、東インド会社に勤めながら文章を書いた人である。「エリア」という筆名でロンドンマガジンに発表された随筆は、「天下の絶品、随筆の華」(あとがきより引用)と言われ、ラムの名はイギリスエッセイ文学の完成者として文学史に刻まれた。
文章ににじみ出るラム氏のお人柄が良い。遠慮がちで繊細で、確固とした価値観を持っていて、朗らかなユーモリストで、心優しい夢見る男なのである。

先日読んだ『ガーンジー島の読書会』の登場人物、若い農夫のドージーは、第二次大戦中ナチスに島を占領されている間、ラムの「エリア随筆」が自分を笑わせてくれたと語っていた。ドージーのお気に入り「豚のロースト談義」他、本書には訳者山内義男さんが選び抜いた珠玉の16編が収録されている。「豚のロースト談義」は、いかにして人は焼いた豚肉の美味しさに気付いたかの歴史的ほら話で始まる 。子豚の思い出はかぐわしい・・・豚のローストを全食物界の最も美味なるものと決めつけるラムの、ローストポーク愛に満ちた食いしん坊ぶり、可愛らしさも感じる名文である。

一方で「幻の子どもたち 夢物語」には哀しい幻想が漂う。子どもたちに兄の思い出を話していたら、伯父さんが亡くなったと知り子どもたちは泣き出す。「そんな悲しい話はやめにして私たちの美しいお母さんのお話をしてください。」子どもたちの姿には失った恋人の面影が宿っていた。子どもたちはすっと遠ざかって消えてゆく。自分に授かったかもしれない、夢の子どもたち。父母も兄も亡くなり、ラムが共に暮らす相手は姉メアリーだけだ。

しかし姉には精神疾患があり、母親を刺し殺すという、家族にとってあまりに不幸な出来事も体験している。ラムは一生結婚せず、働きながら30年以上姉を支えて生きた。

サクサク読める本ではないが、スルメみたいに噛めば噛むほど味が出てくる。巻末の庄野潤三「ラムとのつきあい」も名エッセイで、なぜラムが長く愛され続けるのかがよくわかる作品解説となっている。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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