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ぽんきち
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生と死の、透明な境界
重厚な歴史小説や記録文学の印象が強い著者だが、こちらは昭和30年代から40年代の初期の作品集で、短編6編を収める。表題作は第2回太宰治賞を受賞している。
緻密さよりはロマンティシズムが勝る。少年期から青年期のどこか透明な空気感。しかし、そこに「死」の影が色濃く映し出されている。
戦後しばらく経っているとはいえ、これは戦争の影響なのではないだろうか。あるいは、戦時中に少年期を過ごし、戦中・戦後に若くして両親を亡くし、自身も大病を患ったことがある、著者の心象風景から来るものか。

1作目、「鉄橋」は、若きボクサーの謎の死。前途洋々に見えた彼は、列車に轢かれ死亡する。果たしてそれは自殺なのか事故なのか。謎解きめいてもいるのだが、単純な結論は導かれない。著者の筆は最後にはボクサーの内面へと読者を引きずり込む。さて、ことの「真相」とは。

2作目「少女架刑」と3作目「透明標本」は、いずれも人体解剖・標本作製の話である。いささか驚くのだが、この時代、実際、こうした形で骨標本まで作られていたのだろうか。現代でも献体が医学生の学習に役立てられることはあるわけだが、もっと生々しく、遺体の取り扱いが乱暴である印象を受ける。高校の理科室などの骨格標本が実は本物の人骨であることが判明し、騒ぎになった事件がいくつかあったが、こうした時代(あるいはもう少し前の時代)の遺物なのだろうか。
「少女架刑」は少しSFあるいはファンタジーめく。命を落とした少女が、自身の身体が解体されていくのを観察している。切られ、臓器を除かれ、採取されたものはホルマリンに漬けられ。少女はどこから見ているのだろう。不思議なロマンティシズムが漂う。
「透明標本」の方は、逆に、解剖する側の視点からの物語。完全な透明骨格標本を作製することを夢見ている男。男が望むものは手に入るだろうか。

4作目「石の微笑」。小学校の時の知り合い・曽根に学院(大学のようなものか?)で再会する英一。曽根は下宿屋をしている英一の家に住むことになり、英一を割のいい「バイト」に誘う。ところがこの男、どこか薄気味悪い。そのうちに同居している姉の様子が何だかおかしくなっていく・・・。

表題作「星への旅」は、若者の集団が自殺するために旅をする話、最後の「白い道」は、空襲に焼け出された父とその愛人の元に食料を持っていく少年の話。

いずれも、生と死の境界はさほど確とはしていない。何だかふっと越えられてしまいそうだ。
それが少年(青年)吉村の実感だったのではなかろうか。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1827 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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