紅い芥子粒さん
レビュアー:
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正義もなく、英雄もいない。敗れて滅びてゆくものたちの、涙はらはらの物語。
一冊で「平家物語」が読める。しかも、吉村昭の訳で。
平易な文章で書かれている。
「平家物語」は、語りの文学だという。
ひとりの作者によって書かれた物語ではなく、琵琶法師が琵琶を弾きながら物語る、断章を集めたもの。語り手と聞き手の相互作用で熟成していった物語なのだろう。
平家全盛から滅亡まで、七十年の歴史を語る。
中心となる人物は、平清盛かもしれないが、彼は身勝手な暴君で、物語半ばで死んでしまう。
嫡男の重盛は、温厚で良識ある人物だった。彼が清盛のあとを継いでいれば、平家の世は、もっと長く続いていたかもしれない。しかし、重盛は、横暴な清盛に絶望して、父よりも早く死んでしまった。
絶対的権力者を失った平家の凋落は早かった。
後白河法皇の宣旨を受けて、源氏が平家追討の旗を揚げる。
木曽義仲に、源義経に、追われて西へ西へと逃げる平家の公達。
とくにだれが主人公ということはない。短い章ごとに、ひとつの物語。
中心となる人物も、章ごとに変わる。共通しているのは、涙。
妻子と別れるとき、別れた妻子を思うとき、はらはらと涙する。
妻は、夫の無事を祈って、はらはらと涙する。
敵に攻められ、もはやこれまでと、自害するときにはらはらと涙する。
自害する主人を見送る従者も、涙はらはら。
源氏の武者たちも、若い平家の武者の首を、敵ながらあっぱれと、はらはら泣きながら斬り落とす。
清盛が死んでからは、すべての章で、登場人物のほぼ全員が泣いているので、ページをめくるとき、濡れた紙が指にじっとり貼りつく感じさえする。
正義はなく、英雄もおらず、ひたすらに滅びゆくものを語り続ける。
勝者であるはずの源氏の側にも英雄はいない。
木曽義仲も源義経も、いくさに強い大将ではあるけれど、粗野で卑怯でずる賢く、平家を滅ぼしたあとは、頼朝に裏切られて滅ぼされていく。
南北朝や室町時代には、京都の街中で「平家物語」を語る琵琶法師が数百人もいたといわれている。
日々労働に明け暮れる民衆は、滅びゆく支配階級の物語を聞いて、同情とカタルシスを感じただろう。それは、弾き語る盲目の琵琶法師も同じだったのではないかと思う。
平易な文章で書かれている。
祇園精舎の鐘の音には、諸行無常の響きがある。というように。
「平家物語」は、語りの文学だという。
ひとりの作者によって書かれた物語ではなく、琵琶法師が琵琶を弾きながら物語る、断章を集めたもの。語り手と聞き手の相互作用で熟成していった物語なのだろう。
平家全盛から滅亡まで、七十年の歴史を語る。
中心となる人物は、平清盛かもしれないが、彼は身勝手な暴君で、物語半ばで死んでしまう。
嫡男の重盛は、温厚で良識ある人物だった。彼が清盛のあとを継いでいれば、平家の世は、もっと長く続いていたかもしれない。しかし、重盛は、横暴な清盛に絶望して、父よりも早く死んでしまった。
絶対的権力者を失った平家の凋落は早かった。
後白河法皇の宣旨を受けて、源氏が平家追討の旗を揚げる。
木曽義仲に、源義経に、追われて西へ西へと逃げる平家の公達。
とくにだれが主人公ということはない。短い章ごとに、ひとつの物語。
中心となる人物も、章ごとに変わる。共通しているのは、涙。
妻子と別れるとき、別れた妻子を思うとき、はらはらと涙する。
妻は、夫の無事を祈って、はらはらと涙する。
敵に攻められ、もはやこれまでと、自害するときにはらはらと涙する。
自害する主人を見送る従者も、涙はらはら。
源氏の武者たちも、若い平家の武者の首を、敵ながらあっぱれと、はらはら泣きながら斬り落とす。
清盛が死んでからは、すべての章で、登場人物のほぼ全員が泣いているので、ページをめくるとき、濡れた紙が指にじっとり貼りつく感じさえする。
正義はなく、英雄もおらず、ひたすらに滅びゆくものを語り続ける。
勝者であるはずの源氏の側にも英雄はいない。
木曽義仲も源義経も、いくさに強い大将ではあるけれど、粗野で卑怯でずる賢く、平家を滅ぼしたあとは、頼朝に裏切られて滅ぼされていく。
南北朝や室町時代には、京都の街中で「平家物語」を語る琵琶法師が数百人もいたといわれている。
日々労働に明け暮れる民衆は、滅びゆく支配階級の物語を聞いて、同情とカタルシスを感じただろう。それは、弾き語る盲目の琵琶法師も同じだったのではないかと思う。
掲載日:
書評掲載URL : http://blog.livedoor.jp/aotuka202
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読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。
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- 出版社:講談社
- ページ数:560
- ISBN:9784062760089
- 発売日:2008年03月14日
- 価格:820円
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