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星落秋風五丈原
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二度と見ることができない美術品たち
 美術品盗難による被害額は、地下経済において麻薬、武器輸出に次いで第3位。今も多くの名品が世界中から消えており、ピカソの作品だけで約500点も盗まれている。美術品の盗難は、コンゲームでよく扱われるため、ともすると我々は“痛快”という感想を抱く。ミッションインポッシブルな警備をかいくぐり、華麗にお宝を盗む怪盗は、子供心には確かに格好良かった。しかし、よく考えると犯罪である。また、長じると、戦争による美術品盗難の歴史を知るようになった。戦争の勝者による美術品強奪は、戦利品扱いされているから質が悪い。

ナポレオンは1796年、アルプスを越えてイタリアへ侵攻。イタリア全土を支配下に治めた際、各地の美術品を押収するように命じる。自分の国の領地にあるものは、領土内のどこに持ってこようが自由だというのが勝者の言い分だ。今でこそ観光地だが、もともとルーブル美術館は、強奪品の展示が目的だった。ナポレオンの敗北後、ヨーロッパは美術品の返還を要求したが、全てが戻ってきたわけではない。ヒトラーのナチスドイツもフランスを占領し、映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』で描かれたように、裕福だったユダヤ人のコレクションをただで強奪した。

 国ではなく個人の盗難も相次いだ。
美術泥棒で描かれた犯人の母親は、苦し紛れに絵画を川に流してしまう。盗難品を密かに個人でコレクションして楽しむだけなら劣化の恐れはないが、発覚時、犯罪の証拠となった美術品を隠そうとして破壊に至ると、再現ができず、最悪の事態となる。過去においてはパトロンと国、芸術家という狭い範囲の鑑賞だったかもしれないが、今では世界中の人が鑑賞できる環境が整っている。盗難は、どんなに格好よく描かれようと、憎むべき犯罪なのである。


美術館盗難を扱ったノンフィクション
美術泥棒
    • アデーレ・ブロッホ・バウアーの肖像
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2326 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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