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DBさん
DB
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ヴァイオリンが鳴り響く話
ヴェネツィアの孤児院「ピエタ」でヴァイオリニストとして暮らす少女チェチリアと、赤毛の司祭アントニオ・ヴィヴァルディの交流を描いた物語です。
タイトルになっている「スターバト・マーテル」はドヴォルザークの物が有名だと思うけど、十三世紀の詩人ヤコポーネ・ダ・トーディにより聖母讃歌からきていて、「スターバト・マーテル・ドロローザ」ラテン語で「悲しみに暮れて聖母はたたずんでいた」という意味の言葉で始まる讃歌だそうだ。
我が子がかけられた十字架のもとで悲嘆に暮れる聖母を思わせるような暗いイメージが物語にも漂っている。
そこに鳴り響くヴィヴァルディの「四季」が陰鬱な悲嘆を切り裂いていくかのような鮮烈な印象を与える。

物語はチェチリアが母親にあてて書く手紙の形で進んでいきます。
生まれてすぐに孤児院に捨てられ、壁の中で成長したチェチリアは孤独を好む少女だった。
眠れない夜中に暗い壁を見つめて心の中で自分を産んで捨てた母や死の影と対話する。
暗い海を覆いつくす毒液によって死にかけ口をパクパクさせて浮かぶ大量の魚と、それを岸から見ながら毒液の波が足にかかっている。
そんな情景を思い浮かべるチェチリアは、暗い表情で口数も少なく生活しているのだろう。
母親に対する感情を吐露するも、「愛されるより、愛する方がずっと冷めているわよ。誰にもなにも期待しないのだから」とは真言だ。
「孤児院の中の誰の友だちでもない」と独語するが、シスター・テレーザのようにチェチリアを気にかけて親切にしてくれる人もいる。

ピエタでは少女たちが才能があるものは楽器演奏を、そうでないものは縫い物や料理を教えられて将来の糧となるようにしていた。
楽器演奏の技術と理論を幼いころから教え込まれたチェチリアのヴァイオリンは、もともとの才能もあって完璧なものだったのだろう。
定期演奏会の時は高いバルコニーから姿が見えないようにして演奏し、寄付金のために貴族や富裕層に依頼されて演奏する時は仮面をつけるのが習慣だった。

それまでピエタで作曲をしていたジュリオ神父の曲はワンパターンで退屈なものだったが、アントニオ神父にかわってから一変する。
孤児院から外出する機会も限られていて田園の風景を見たこともない少女たちに、イメージだけで世界を一周できるような曲を演奏させようとするアントニオ神父の練習は奇抜なものだった。
暖かさが空気の中に広がっていってツバメが飛びスズメが喧嘩をしてキジバトとカッコウが鳴き続ける春の情景が嵐で一変し、突風と稲光ですべてを壊していく。
ヴィヴァルディの音楽がヴェネツィアに、そして世界に与えた影響は大きい。
今度ヴィヴァルディの曲を聞くときには、それを演奏したであろう少女たちの姿も思い浮かべてみよう。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2034 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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