レビュアー:
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「蜘蛛女」のキスに、愛がこもっていたのは確かなことだ。
ほぼ全編が会話文で出来ているこの小説を読むのは、電車に乗っている時に隣に座った二人連れの会話が耳に入ってくる状況に似ている。最初は彼らがどういう関係なのかわからないけれど、なんとなく聞いているうちにわかってくるところとか。
舞台はブエノスアイレスの刑務所で、登場人物はふたり。映画のストーリーを語っている女っぽい言葉遣いの人は、同性愛者のモリーナ。彼は未成年者の猥褻幇助罪で収監された。時々質問しながら聞いている男はバレンティンといい、工場労働者の騒乱を煽動して検挙された活動家だ。ふたりはいま同部屋で過ごし、眠れぬ夜の無聊を慰めるために映画の話をしている。
モリーナは夜ごと様々な映画の内容を語り、劣悪な環境と絶望の暗闇に光と色彩を広げる。その語り口にはモリーナの情感の豊かさが、激しい腹痛を起こしたバレンティンに対する献身的な介抱には、人柄の純粋な優しさが表れていて、ふたりの孤独な囚人の間には親愛の情が生まれ育ってゆく。
ところが、第一部最後の「所長」と「被告人」の会話により、モリーナとバレンティンが同部屋に入れられている理由が判明すると、タイトルの「蜘蛛女」という言葉が、なんとも象徴的であることに気付かされてしまうのである。
会話文で進む本編がロマンチックな情緒に溢れているのに対し、第一部と第二部の後に付帯する"原注"は異質である。様々な事例をあげて、同性愛への偏見について語っているのだ。作者がこの場で強硬に反論したのは、「世間の人たちの同性愛者に対する顕著な不信」に対してである。たいへん読みづらいが、この"原注"には作品の意図が描かれているように思う。
ふたりが肉体関係を結ぶ時に私の目に映ったのは、相手を心から愛おしむという、異性愛者と何ら変わるところのない姿だった。本書の衝撃的結末については、その理由に関して何通りもの考え方ができるということ以外、書くことは出来ない。
彼らは語り合うことによってお互いの人間性を知り、尊敬と慈しみの気持ちを持った。それを「愛」と呼ぶのは、何にも間違ったことではない。たとえ、そのハッピーエンドの夢が、とても儚いものであろうとも。
舞台はブエノスアイレスの刑務所で、登場人物はふたり。映画のストーリーを語っている女っぽい言葉遣いの人は、同性愛者のモリーナ。彼は未成年者の猥褻幇助罪で収監された。時々質問しながら聞いている男はバレンティンといい、工場労働者の騒乱を煽動して検挙された活動家だ。ふたりはいま同部屋で過ごし、眠れぬ夜の無聊を慰めるために映画の話をしている。
モリーナは夜ごと様々な映画の内容を語り、劣悪な環境と絶望の暗闇に光と色彩を広げる。その語り口にはモリーナの情感の豊かさが、激しい腹痛を起こしたバレンティンに対する献身的な介抱には、人柄の純粋な優しさが表れていて、ふたりの孤独な囚人の間には親愛の情が生まれ育ってゆく。
ところが、第一部最後の「所長」と「被告人」の会話により、モリーナとバレンティンが同部屋に入れられている理由が判明すると、タイトルの「蜘蛛女」という言葉が、なんとも象徴的であることに気付かされてしまうのである。
会話文で進む本編がロマンチックな情緒に溢れているのに対し、第一部と第二部の後に付帯する"原注"は異質である。様々な事例をあげて、同性愛への偏見について語っているのだ。作者がこの場で強硬に反論したのは、「世間の人たちの同性愛者に対する顕著な不信」に対してである。たいへん読みづらいが、この"原注"には作品の意図が描かれているように思う。
ふたりが肉体関係を結ぶ時に私の目に映ったのは、相手を心から愛おしむという、異性愛者と何ら変わるところのない姿だった。本書の衝撃的結末については、その理由に関して何通りもの考え方ができるということ以外、書くことは出来ない。
彼らは語り合うことによってお互いの人間性を知り、尊敬と慈しみの気持ちを持った。それを「愛」と呼ぶのは、何にも間違ったことではない。たとえ、そのハッピーエンドの夢が、とても儚いものであろうとも。
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- 出版社:集英社
- ページ数:464
- ISBN:9784087606232
- 発売日:2011年05月20日
- 価格:920円
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