ゆうちゃんさん
レビュアー:
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アメリカの田舎町からシカゴに上京したキャリー。女工として働くのにすぐうんざりし、ドルーエと言う男と同棲する。ドルーエが何の気なしに紹介したハーストウッドと言う男に惹かれてゆくが、彼は既婚者だった。
ドライサーの代表作。田舎から出てきた若い女性キャリーの出世物語である。
キャリーはコロンビア・シティからシカゴの姉夫婦を頼って上京した。姉夫婦には下宿代を払って置いてもらう約束である。シカゴで列車から降りる時、ドルーエと言う販売代理人の男にナンパされそうになった。キャリーは、生活を切り詰める姉夫婦との暮らし、そして靴の工場での女工としての仕事に、すぐうんざりする。街中でドルーエに会い、そんな暮らしはダメだと言われた。キャリーさえよければ、服も装飾品も買ってあげると言う。だが買っても姉夫婦の家にその服や装飾品を着けて帰れない。気の良いドルーエは、部屋を借りてやるからそこで暮らせばよいという。結局、姉に書置きをして、キャリーはドルーエの借りた部屋に住み、同棲した。罪悪感はすぐ薄れ、観劇、外食とそれなりに楽しい生活を送る。最初のうちはドルーエに結婚をせっついた。しかし、ドルーエより頭が良いキャリーは次第に物足りなくなる。ドルーエが連れてきたのが、酒場の支配人ハーストウッドだった。ハーストウッドの洗練の度合いはドルーエを寄せ付け居ないほどに見えた。ハーストウッドもキャリーを一目みて気に入ったようだった。ドルーエは出張が多い。ドルーエが不在中にハーストウッドがキャリーを訪ねても、彼は「キャリーが寂しがっているところに気を使ってくれて」と言うくらい鈍感だった。ハーストウッドはもう成人した息子、学校に通っている娘と嫌々生活している妻がいたが、家庭生活にはうんざりしている。彼は自分が既婚者であることを隠してキャリーに近づき彼女と結婚の約束をする。そして不幸な偶然が重なりドルーエは、キャリーとハーストウッドの関係は、自分が思っているようなものではなく深いことを知る。ほぼ同時にハーストウッド夫人ジュリアも夫が誰か若い女とどこかに出かけていることを知った。
キャリーは人目を惹く美人だとされている。また物まねもうまく、演技者である。上巻の頂点は、フリー・メーソンの会員でもあるドルーエがキャリーに持ち込んだ支部の素人芝居の上演の場面である。稽古の最中から他の素人役者より一歩抜きん出ていて、本番では最初はあがったが、徐々に本領を発揮してゆくキャリーの様子が描写される。
しかし、僕が一番感心したのは、キャリーとハーストウッドの妻の怒りの場面である。第二十三章はキャリーの怒りに当てられている。ドルーエは、キャリーにハーストウッドとの関係を問いただし、思わず「僕だったらあいつとかかわることはしない、所帯持ちだからだ」と言ってしまう。ここでキャリーは初めてハーストウッドが所帯持ちだと知る。その時に、混乱し支離滅裂になったキャリーの怒りの場面が面白い。「なぜ、ハーストウッドが既婚者だと教えなかった」に始まり、生活の面倒を見てくれたドルーエのことごとくを非難する。まさに逆切れ状態。こんな場面は御免だと思いながら、これが読書でよかったものだとホッとする。
一方で、ハーストウッド夫人の動向は、もっぱらハーストウッドの行動を通じて読者にわかるようになっている。浮気がばれたハーストウッドは、その晩、ホテルに泊まることにした。妻はメッセンジャーボーイを使って最初は旅行の金を要求する。悔しさもあり、家長としての面目をつぶされたハーストウッドは、さんざん迷った挙句、最初は自ら金を届けに行った。だが彼は締め出しを食らう。そして旅行費用をメッセンジャーボーイに託すと今後はハーストウッド夫人の代理だという弁護士事務所から面会の依頼が来る。キャリーほど明け透けではない、ハーストウッド夫人の冷たい怒りがよくわかるが、これはこれで恐ろしく、御免な話である。
キャリーの容姿の描写はそれほど無いが、酒場の支配人で世慣れた筈のハーストウッドと言う男が、見境もなく判断を狂わされることが、彼女の美しさを強調しているようにも読める。会話の部分はそれなりに長いが、テンポよく読めるようになっており、19世紀末のシカゴの風俗も活写され、面白い通俗小説に仕上がっている。
キャリーはコロンビア・シティからシカゴの姉夫婦を頼って上京した。姉夫婦には下宿代を払って置いてもらう約束である。シカゴで列車から降りる時、ドルーエと言う販売代理人の男にナンパされそうになった。キャリーは、生活を切り詰める姉夫婦との暮らし、そして靴の工場での女工としての仕事に、すぐうんざりする。街中でドルーエに会い、そんな暮らしはダメだと言われた。キャリーさえよければ、服も装飾品も買ってあげると言う。だが買っても姉夫婦の家にその服や装飾品を着けて帰れない。気の良いドルーエは、部屋を借りてやるからそこで暮らせばよいという。結局、姉に書置きをして、キャリーはドルーエの借りた部屋に住み、同棲した。罪悪感はすぐ薄れ、観劇、外食とそれなりに楽しい生活を送る。最初のうちはドルーエに結婚をせっついた。しかし、ドルーエより頭が良いキャリーは次第に物足りなくなる。ドルーエが連れてきたのが、酒場の支配人ハーストウッドだった。ハーストウッドの洗練の度合いはドルーエを寄せ付け居ないほどに見えた。ハーストウッドもキャリーを一目みて気に入ったようだった。ドルーエは出張が多い。ドルーエが不在中にハーストウッドがキャリーを訪ねても、彼は「キャリーが寂しがっているところに気を使ってくれて」と言うくらい鈍感だった。ハーストウッドはもう成人した息子、学校に通っている娘と嫌々生活している妻がいたが、家庭生活にはうんざりしている。彼は自分が既婚者であることを隠してキャリーに近づき彼女と結婚の約束をする。そして不幸な偶然が重なりドルーエは、キャリーとハーストウッドの関係は、自分が思っているようなものではなく深いことを知る。ほぼ同時にハーストウッド夫人ジュリアも夫が誰か若い女とどこかに出かけていることを知った。
キャリーは人目を惹く美人だとされている。また物まねもうまく、演技者である。上巻の頂点は、フリー・メーソンの会員でもあるドルーエがキャリーに持ち込んだ支部の素人芝居の上演の場面である。稽古の最中から他の素人役者より一歩抜きん出ていて、本番では最初はあがったが、徐々に本領を発揮してゆくキャリーの様子が描写される。
しかし、僕が一番感心したのは、キャリーとハーストウッドの妻の怒りの場面である。第二十三章はキャリーの怒りに当てられている。ドルーエは、キャリーにハーストウッドとの関係を問いただし、思わず「僕だったらあいつとかかわることはしない、所帯持ちだからだ」と言ってしまう。ここでキャリーは初めてハーストウッドが所帯持ちだと知る。その時に、混乱し支離滅裂になったキャリーの怒りの場面が面白い。「なぜ、ハーストウッドが既婚者だと教えなかった」に始まり、生活の面倒を見てくれたドルーエのことごとくを非難する。まさに逆切れ状態。こんな場面は御免だと思いながら、これが読書でよかったものだとホッとする。
一方で、ハーストウッド夫人の動向は、もっぱらハーストウッドの行動を通じて読者にわかるようになっている。浮気がばれたハーストウッドは、その晩、ホテルに泊まることにした。妻はメッセンジャーボーイを使って最初は旅行の金を要求する。悔しさもあり、家長としての面目をつぶされたハーストウッドは、さんざん迷った挙句、最初は自ら金を届けに行った。だが彼は締め出しを食らう。そして旅行費用をメッセンジャーボーイに託すと今後はハーストウッド夫人の代理だという弁護士事務所から面会の依頼が来る。キャリーほど明け透けではない、ハーストウッド夫人の冷たい怒りがよくわかるが、これはこれで恐ろしく、御免な話である。
キャリーの容姿の描写はそれほど無いが、酒場の支配人で世慣れた筈のハーストウッドと言う男が、見境もなく判断を狂わされることが、彼女の美しさを強調しているようにも読める。会話の部分はそれなりに長いが、テンポよく読めるようになっており、19世紀末のシカゴの風俗も活写され、面白い通俗小説に仕上がっている。
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神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:484
- ISBN:9784003232118
- 発売日:1997年06月16日
- 価格:1134円
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