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はるほん
レビュアー:
社会主義国の中にあった小さな楽園。
ロシア語同時通訳者であった米原さんは
日本共産党幹部だった御尊父の赴任で
9歳から14歳の少女時代をチェコスロバキアで過ごされた。
そこで旧ソビエト学校に通い、グローバルな交友関係を育む。

そこで得た3人の友を語ったエッセイ。
日本人の「マリ」とギリシャ・ルーマニア・ユーゴスラビアの友が
故国を離れてもなお色褪せない母国への想いと
冷戦時代の複雑な環境を過ごす姿が描かれている。

エッセイながら、まるでフィクション世界のようだ。
それは恐らく、日本の小中学生とかけ離れているからだろう。
周囲が海でほぼ単一民族という特殊な環境に居る私達は、
「国境」というものを肌で感じることが少ない。
せいぜい関東・関西間の仁義なき戦いをみるくらいである。

年端のいかない子供でも、これだけの愛国心と
政治と国際関係への観察眼が芽生えるのかと、目を見張る思いだ。
否、それが当然なのだろう。
言葉も宗教も習慣も違う50ヶ国のクラスメートの中にあって、
互いを理解することは国を理解することでもある。

ある意味では、子供だからこそできる
本当の意味での国際交流なのかもしれない。
授業やニュースを知るためのものではない、
純粋な「客観視」を羨ましいとも思う。

また非常に面白いと感じたのは
内からみた「社会主義国」という生活だ。
どうしても「貧しい」「危険」などという印象を抱きがちだが、
「マリ」からみた日常的な長所にはっとさせられる。

たとえば才能を持った人間というのは
妬みや僻みといった注目の的になることが、多々ある。
が、社会主義国は「富を分配する」という思想から、
「人の才も共同財産であり、喜ぶべきもの」と考えるのだそうだ。
無論、学校という場所がらそれが顕著だったのかもしれないが、
純粋に「社会主義」という思想がそういうコトも含むのだと、
ちょっと目からウロコが落ちる感慨があった。

さておき、本書の話。
三編の話で一番心に残ったのは、ユーゴスラビアだろうか。
ユーゴスラビアと聞いて一番に思い浮かべるのは
個人的にサッカーである。

ユーゴスラビアはかつて、サッカー強豪国だった。
ピクシーの愛称で有名なストイコビッチが、この代表だった。
この時、最後の代表監督を務めたのが、あのオシム監督である。
内戦と独立でいまやこの国は存在しないが、
セルビア、クロアチア、スロベニア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、
マケドニアとして新たに国の代表チームとなっている。

2014年のW杯では、旧ユーゴから2つの国が予選を突破した。
政情が安定してきたのだなあと見守りつつ、
今まで「独立」というものを漠然と受け入れていたが、
本書でふと、独立とは何なのだろう、と思った。

ヤスミンカは自分がボスニア人だという自覚は無く、
ユーゴスラビア人という愛着と記憶があるのだと語った。
それは、そうだろう。
自分の生まれた環境と権利が
当たり前に続くことこそが「幸福」なのではないだろうか。

それが出来ないから、「独立」するしかなかったのだ。
少なくとも、人々は「戦争をしたかった」訳ではない。
「国家の意」であり、「国民の総意」ではなかったはずだ。
なぜ国民はこんなにも「国」に翻弄されなければならなかったのだろう。
50ヶ国もの国の子供たちが、同じ建物の中で互いを認めてあっていたのに。

「リッツァの夢見た青空」
「嘘つきアーニャの真っ赤な嘘」
「白い都のヤスミンカ」というカラーは、ロシアの国旗の色となる。
それは米原さんにとって、社会主義国の中にあった
平等で幸福な楽園の象徴なのかもしれない。
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はるほん
はるほん さん本が好き!1級(書評数:684 件)

歴史・時代物・文学に傾きがちな読書層。
読んだ本を掘り下げている内に妙な場所に着地する評が多いですが
おおむね本人は真面目に書いてマス。

年中歴史・文豪・宗教ブーム。滋賀偏愛。
現在クマー、谷崎、怨霊、老人もブーム中
徳川家茂・平安時代・暗号・辞書編纂物語・電車旅行記等の本も探し中。

秋口に無職になる予定で、就活中。
なかなかこちらに来る時間が取れないっす…。

2018.8.21

読んで楽しい:9票
参考になる:19票
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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2016-04-08 16:22

    コレを読んだらやっぱりこちら↓の小説も読んでいただかないと!
    もう読まれているかしら?まだならお薦めです!

  2. はるほん2016-04-08 22:47

    >かもめ通信さん
    へ~~、これも面白そう!
    この時代、なかなか興味深いなと思ってたので
    是非読ませていただきまっす!いつか。(笑)

  3. No Image

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