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ソネアキラ
レビュアー:
父にさらわれた娘と父の気ままな二人旅
『キッドナップ・ツアー』角田光代著を読む。

ある日突然、父親から誘拐された娘。家を出た父親と―多分離婚したのだろう―娘は旅に出る。まずデパートで父親は服を買い与え、知り合いから借りた車でドライブする。やがて海辺の町まで電車に乗る。父親の懐(ふところ)があたたかいうちは、旅館や民宿に泊まるが、だんだん心許(もと)なくなってくるにつれ、お寺の宿坊、公園の野宿とランクはダウンしていく。交通手段も、バスから捨ててあった自転車になっていく。

娘は、父親に文句をつけたり、怒ったり、あれ買って、これ欲しいだのと言い続ける。しまいには、助けを求めて警察署に父子ともども、連行されたりもする。そんないまどきの子どもの気持ちもよく表現されている。こんな誘拐旅行ならしてみたくなる。思わず娘も父親に「またユウカイしにきてね」と、言うぐらいなのだから。

いつしかキッドナップ・ツアーは終わりに近づく。駅で別れる時、手を振るさえないショボクれた父親を見て娘は、こうつぶやく。「(父親が)不思議とぴかりと光って見えた。まるで金色のカプセルにつつまれているように」。世の父親族にはたまらないフレーズではないだろうか。


車窓から流れる入道雲や青い空、そしてヒマワリ、潮騒、波しぶき、民宿の畳、お墓での肝試し。子どもの頃の懐かしい夏、日本の夏を想像させる。

わずか数日間の旅を体験して、女の子はちょっぴりオトナになった。その間、父親と娘の間に芽生える友情のような愛情。その成長ぶりを作者はこう記している。「まるで、薄い皮一枚を残して、中身を全部入れかえてしまったみたい」。うーん、まいった。

理論社版だと、ジャック・タチ自作自演の映画『僕の好きな伯父さん』の映画ポスターからインスパイアされたと思われる唐仁原教久の表紙及び本文のでしゃばらないイラストレーションも功を奏している。

ハートウォーミングなロードノベルとは、本作のためにある惹句(じゃっく)だ。
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ソネアキラ
ソネアキラ さん本が好き!1級(書評数:2196 件)

女子柔道選手ではありません。開店休業状態のフリーランスコピーライター。暴飲、暴食、暴読の非暴力主義者。東京ヤクルトスワローズファン。こちらでもささやかに囁いています。

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詩や小説らしきものはこちら。

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