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ゆうちゃん
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ノン・シリーズ3作目は、1作目と同じような本格推理小説となっている。トリックの妙と人間関係の解明がほどよく合わさった秀作である。
ルース・レンデルのノン・シリーズ・サスペンス作品の三作目。

今回は、ヒロインであるスーザン・タウンゼンドの隣家で起きる事件が主題。スーザンは新聞の主幹を務める夫に離婚されて今はマッチダウン・パークの家に息子のポールと暮らす。だが彼女はまだ26歳。隣家<ブレイサイド>には、ロバート・ノースとその妻ルイーズが住むが、妻のルイーズは、セントラル・ヒーティングのセールスマンであるバーナード・ヘラーと不倫をしていると言うのが近所の専らの噂だった。スーザンは自分の夫が若い女に走った経験から、そんな噂とは距離を置きたいのだが、近所のドリス、掃除婦のドリング夫人の噂話が嫌でも耳に入ってくる。今日も、ノース家にはセールスマンの車が止まっているのが見えた。ある日ルイーズはスーザンに相談があると言う。今夜来てほしいと頼まれたが幼いポールをひとり置いて家を空けられない。スーザンはしぶしぶ、翌日にノース家を訪ねることにした。相談があると言われた日、スーザンは誕生日が近いポールのプレゼントを買いに出かけるとロバート・ノースが車に乗せてくれた。近所では寝取られ男と評判の彼との会話は弾まない。スーザンはさっさと下ろしてもらい店に向かった。
翌日は雨。ドリング夫人のおしゃべりにうんざりしているスーザンは隣家にまたセントラル・ヒーティングのセールスマンの車が止まっているのを見た。これではルイーズが頼んだ訪問などできない。ノースは昼食に帰る筈だと言うのにセールスマンの車は11時になっても、12時半になってもまだ止まっている。スーザンはふたりが情事に夢中になっているのだろうと思ったが、自分のように離婚されてはかわいそうだと警告に行くことにした。驚いたことに裏口に鍵がかかっていない。家の中は恐ろしく静かだった。恐る恐る22階に上がると、スーザンは寝室でルイーズとヘラーが折り重なって死んでいるのを発見した。パニックになりながらも、警察に電話をかけた。
その事件の数日前、デイヴィッド・チャドウィックは友人のバーナード・ヘラーに偶然会い、貸していた映写機を返してもらうために彼の家に立ち寄った。ヘラーは元気がない。もともとスイス人のヘラーは、会社からスイス転勤を命ぜられ喜んでもよいはずだ。だがヘラー家を訪ねると、妻のマグダリーンは、夫に愛想がなくひとりで映画を観に行くと言って家を飛び出した。デイヴィッドは、ヘラーに元気がないのは夫婦仲が破綻しているからだろうと思った。映写機を探すバーナードは、妻に言われた台所の調理台の下を探した。そこに映写機はあったが拳銃も同時に出て来た。ヘラーは違法に持ち込んだものだが護身用だと言い訳した。
ルイーズとヘラーの死に関する検死審問が開かれ、ヘラーがルイーズを撃ち、その後自殺したと言う評決が出た。凶器はヘラーの拳銃である。法廷ではヘラーの妻マグダリーンが、ノースに「奥さんを放っておくからこんなことになるのだ」と罵ったと言う。デイヴィッドはヘラーの検死審問を傍聴し、その後、「鉄仮面」と言うパブに入るがそこでマグダリーンを見かけた。お悔みを言うため話しかけると、彼女はつっけんどんな態度だったが、ある男がパブのドアを開け中の様子をみて引っ込むと、急に態度を変えてデイヴィッドに送ってほしいと頼んできた。デイヴィッドはドアを開けた男をどこかで見た気がした。

こちらも、第一作と同じく本格物の推理小説であり、また夫婦関係を扱う小説となっている。探偵役はヘラーの友人デイヴィッドである。ちょっと都合の良い出会いが多すぎるし、デイヴィッドが手がかりを入得る場面も運に恵まれすぎている感じもするが、著者はその分デイヴィッドに苦労させているので、あまり目くじらを立てるほどのものではない。実は小説の後半で犯人と犯罪の構図が一見、明らかになるように思わせる点がミソ。しかし著者はみごとなどんでん返しを用意しており、前記のご都合主義を割り引いても非常に楽しく読める本格推理小説となっている。レンデルの推理小説はトリックと言うよりは、人間関係を解き明かすことに主眼を置いているが、本書は人間関係とトリックを程よく混ぜ合わせた、技巧的な構成になっている。なおヒロインのスーザンは、ラファエル前派的美人。ラファエル前派のミレイの絵画に登場する女性に酷似しているとされる。ラファエル前派が好きな僕にはこの点も高評価。
    • 本書に登場するミレイの「釈放命令」。右の女性がスーザンに似ているとされる
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1688 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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