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そうきゅうどう
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こういうことは書いてはいけないのだが、本作はサプライズエンディングが待っている。それは、ある意味、ミステリ作家がただ一度だけ使うことのできる捨て身のサプライズエンディングとも言えるものだ。
このところミステリでは「昔読んで印象深かった作品を改めて読み直す」ことをしていて、昔旧訳で読んだこのカトリーヌ・アルレーの『わらの女』の再読もその1つである。『わらの女』に関しては結末を覚えていたので、衝撃としてはそれほどではなかったが、それでも十分刺激的な読書体験を味わうことができた。

ハンブルクで暮らすドイツ人のヒルデガルト・メーナー(解説によると、旧訳ではヒルデガルデ・マエナーだったが、新訳ではドイツ語的な読み方に改められたよう)34歳は良縁を求めて、毎週金曜日の新聞の求縁広告に目を通していた。そんな彼女の目に止まったのが
当方大資産家、良縁求む。願わくはハンブルク出身、未婚、だが世間知らずでなく、家族も身寄りもなく、贅沢が肌に合い、旅を好む女性。おぼこ娘も涙もろいオールドミスもお断り。
という広告で、それをチャンスと捉え、練りに練った応募の手紙を書いた彼女は、そこから1人の男が描くある計画の中に取り込まれていく…。

ミステリの紹介として、こういうことは書いてはいけないのだが、本作はサプライズエンディングが待っている。最近のミステリは、言葉(の解釈)1つで物語世界が一気にひっくり返る、叙述トリックによるサプライズエンディングが盛んに用いられているが、本作のそれは、ある意味、ミステリ作家がただ一度だけ使うことのできる捨て身のサプライズエンディングとも言えるものだ(その衝撃ゆえか、これも解説によると、巷では本作について複数のエンディングが流布しているようである)。

また解説によると、本作には物語を破綻させてしまいかねない重要な瑕疵があるが、それについて佐野洋は、それが致命的な欠陥だと認めた上で
「しかし……『藁の女』(注:最初に本作が日本に紹介された時はこのタイトルだったよう)には私は未練を持っている。……種々の小説としての面白さが、強烈な印象として、私の中に残っているのだ」
と書いているという。ちなみに、その瑕疵がなくても現代ではこの物語は成立しない(全ては捜査技術の発達によるものだ)。

巻末の著作リストで知ったのだが、本作はアルレーの第2作だった。つまり彼女は第2作でこれを書いてしまったわけだ。私は初読で本作を読んだ後、何冊かアルレー作品を続けて読んだが、どれも本作を超えることはなく、いつしか読むのを止めてしまった。今もその印象が強く残っていて、私は本作に続いてアルレー作品を読むつもりはないが、別のレビューでも書いてきているように今、図書館からは古い作品がどんどん姿を消している。あなたが仮に『わらの女』を読んでアルレーに興味を持ったなら、読めるうちにアルレー作品を読んでおくことをオススメしたい(「私はフランス語の原書でバリバリ読めるよ」という人はその限りではないが)。
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そうきゅうどう
そうきゅうどう さん本が好き!1級(書評数:594 件)

「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp

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この書評へのコメント

  1. jet2023-10-07 22:41

    そうきゅうどうさん>
    お久しぶりです。推理小説得意ですか?教えてください。

  2. そうきゅうどう2023-10-07 23:39

    >jetさん
    >推理小説得意ですか?

    「得意か」というのは「読むのが苦でないか」という意味ですか、それとも「よく知ってるか」という意味ですか?
    前者なら、読むのは苦ではないけど推理小説なら何でも好き、というわけではありません。読む作品にはかなり偏りがあります。後者なら、以前はよく知ってると言えましたが、今はそうでもないかもしれません。

  3. jet2023-10-09 08:18

    読むのが苦である、という可能性は無いですよ。以前レヴューしておられた特捜部とかが、興味深かったので、お聞きしたまでです。図書館の期限切れでお返ししました。

  4. No Image

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