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hackerさん
hacker
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「ここには、およそ子ネコに必要なものがぜんぶそろっていた。食事の世話をしてくれる(ネコ)ママと、思うぞんぶん遊べる場所と、守ってくれる父さん犬が」(本書より)
本書のことは、ぱせりさんとぷるーとさんの書評を読んで、知りました。感謝いたします。

ふと思い立って、犬猫が主役若しくは重要な役割を果たす本を、最近定期的にずっと読んでいますが、犬の本と猫の本というのは、クラフト・エヴィング商会の『猫』と『犬』がそうであったように、だいたいは別々の本になっています。ただ、2008年刊の本書は、表紙からも分かるように、犬と猫が共に主人公のお話です。1954年生まれの作者キャシー・アッペルトは、英文Wikipediaによると、40冊以上の児童文学やYAものの本を出版していて、本国アメリカではそれなりに知られているのでしょうが、日本での翻訳は、これが二冊目のようです。本書は、彼女が最初に書いた長篇小説でもあります。内容を簡単に紹介します。


本書は、現代、25年前、千年前の三つの時と太古から続く、米南部バイユー・カントリーの森を舞台にした、お話です。現代から登場するのは、保護されたものの、妊娠していると分かって、森に捨てられた猫のキャリコ、その二匹の子猫の兄妹パックとサビーン、そして残酷な飼い主ガーフェースの意に背くことをして以来、ずっと3メートルの鎖につながれっぱなしになっている老犬レンジャーです。子猫をお腹に抱えていたキャリコは、森の中をさまよううちに、ガーフェースが住んでいる古い一軒家を見つけます。犬と猫は相性が悪いのは知っていましたが、レンジャーが歌っているブルースを聞き、この犬なら危険はないと判断します。

「バイユーの朝
 心には鎖
 しばられて
 死にかけて
 泣いている
 老いぼれ犬に、骨の一本も投げてくれ
 雨、空から涙
 涙が降る
 ただ耐えて
 泣いている
 ひとりぼっちの
 老いぼれ犬に、骨の一本も投げてくれ」

そして、レンジャーはキャリコを受け入れ、ガーフェースの家の床下で暮らすようになります。しかし、レンジャーは、飼い主のガーフェースは残酷な男だから、絶対に彼の前に姿を見せないように、と警告します。やがて、パックとサビーンが生まれましたが、子猫たちにも「下」(本書原題"The Underneath")から外に出ないように言いつけます。夜、キャリコが狩りに出ている間は、レンジャーが子猫たちの面倒を見るのでした。

ガーフェースは25年前に父親に暴行されて、顔に傷を負ったまま家出をし、この森で狩猟をしながら暮らすようになったのでした。そして、近くの沼には、体長30メートルの巨大ワニがいることを知っていて、何とか狩りたいと思っていました。実は、そのワニは千年以上生きていて、やはり千年以上生きているラミアと呼ばれる、巨大な蛇の姿をした魔性の生き物、通称ヌママムシの婆の弟分にあたる生き物でした。そして、このヌママムシの婆は、千年前のある出来事によって、テーダマツと呼ばれる巨木の根本に埋められている甕の中に閉じ込められたままになっていたのです。しかし、25年前の落雷により上半分が燃えてしまい、テーダマツも、かっての力強さは失われていました。もう一つ何かが起こると、甕から脱出できることをヌママムシの婆は知っていました。そうしたところへ、嵐がやって来たのでした。


お分かりのように、本書は一種のファンタジーです。そして、犬と猫が孤独と愛で結ばれているに対し、愛のない孤独の中で暮らすガーフェース、愛が招いた嫉妬によって千年の間甕に閉じ込められたヌママムシの婆が描かれることからも、基本的には愛の物語です。ただ、読んでいると、犬と猫の運命にハラハラする冒険ファンタジーの要素の方が強く感じられますし、もちろん、どう読むのかは読者次第です。個人的な感慨としては、わが家で昔一緒に暮らしていた、犬のチャチャと猫の親子デコとハッチのことを思い出し、懐かしいものがありました。広い世代の方が、楽しみながら読める本だと思います。
    • 左から、ハッチ(子)、デコ(親)、チャチャ
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2281 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

読んで楽しい:5票
参考になる:20票
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