efさん
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ユーモアたっぷりの奇譚短編集
先日、アヴラム・デイヴィッドスンの『不死鳥と鏡』という本を読んだのですが、「デイヴィッドスンと言えば、あの本も持っていたなぁ。まだレビュー書いてないじゃん!」と思い出したのが本書です。
久しぶりだから再読してレビュー書きますかね、ということで再読なのです。
しかし、デイヴィッドスンって作風が広いですよねぇ。私のイチオシは『エステルハージ博士の事件簿』なのですが、本書に収録されている作品はまた違った雰囲気で、概ねユーモラスな作品ばかりなのです。
読者は、デイヴィッドスンのカラーがちょっとつかみにくいかもしれませんねえ。
それじゃ、どんな作品なのか、収録作品から何作かご紹介しましょう。
〇 ゴーレム
老夫婦の家に突然ゴーレムが現れます。奥さんは「あの人、顔色悪いしどこか具合でも悪いんじゃない?」と夫に話しかけると、夫も「まるでゴーレムみたいな歩き方だ」などと言います(いや、ゴーレムなんすよ)。
ゴーレムは、「自分は人間ではない。私が何者かを知れば、お前たちの肉は溶け、骨から剥がれ落ちるだろう」などと一生懸命脅すのですが、老夫婦は聞く耳を持ちません。自分たちだけで勝手におしゃべりしてゴーレムをガン無視です。
ゴーレムはなおもあれこれ脅すのですが、まったく取り合ってもらえず、奥さんから「あなた、この国では人が話している最中に口をはさんだりしないの!」とたしなめられてしまいます。
ようやく夫がこいつはゴーレムなのか? と気付くと陶芸を学んでいる息子からもらった粘土を持ち出し……。
カワイソスなゴーレムがいじましい一編。
〇 さもなくば海は牡蠣でいっぱいに
ある自転車店でのお話です。オスカーとフォードが共同経営しているのですが、フォードは異変に気付いてしまいます。きっかけはフォードが丹精込めてチューンしていた赤い自転車を、二人が喧嘩した時に腹立ちの余りめちゃんこにぶっ壊しちゃったことなんですけどね。
その自転車、勝手に再生しちゃったのです。「こ、これは……」。
そう言えば、オスカーは必要な時には安全ピンが見つからないと言っていたけど、「おい、ちょっとそこの引き出しを開けてみろよ。」そこにはごっそりと安全ピンが入っていたのです。「いや、そこは見たはずなんだが……。」
はたまた、オスカーはハンガーってすぐに溜まって一杯になるとも言っていたけれど、今やハンガーは一本も見つかりません。
フォードはあることに気付くのです。この世界には奇妙な奴らが潜んでいる。安全ピンは増殖し、それがハンガーに変化するのだ。だからある時には安全ピンはありふれた物なのに、その後姿を消し、ハンガーが溢れかえるのだ! 自己増殖するんだ! 赤い自転車だって同じ事だ! 何者かが擬態しているんだ!
なんですってぇ?
ヒューゴ賞受賞作であります。
〇 どんがらがん
中世風の物語です。『どんがらがん』と呼ばれる巨大な大砲を引っ張ってさまよう大砲組という奴らがいました。人々は『どんがらがん』を恐れており、大砲組が現れると要求されるままに食べ物などを差し出していたのです。
「どんがらがーん!」
大砲組の奴らはこんな掛け声と共に諸国を巡り、人々を脅かしていたのです。しかし……この大砲組の奴らってちょっと頭が足りないのでは?
これに気付いたカラナス国からやって来たマリアンは、どんがらがんに近付き、じっくりと観察し始めます。大砲組の頭領モグは、「どけ! 去ね! のどかっきるぞ!」と脅し、手下たちもマリアンを取り囲み口々に脅し始めるのです。しかしマリアンは知らん顔。その内脅すのに飽きたのか、大砲組の面々は囲みを解き、好き勝手なことを始めます。
さすがにモグだけはその場にとどまるのですが、マリアンはぱっと飛び上がるとモグの頭に飛び蹴りをぱこーんとぶちかましたのです。
うぐぐ……。伸びていたモグは起き上がると「のど、かっきるぞ」と頑張るのですが、再びぱこーん!
こうしてモグ以下大砲組はマリアンの手下になってしまったのです(だって、言う事きかないと頭をどやされるからぁ)。
大砲組を配下に収めたマリアンは、『どんがらがん』の指南書も手に入れ、書かれていた通りの火薬を薬種商で脅し取り、ついでに主人も配下に収め戦略的高地を目指します。
「どんがらがーん!」
大砲組はマリアンに言われるまま『どんがらがん』を運び上げます。そして、マリアンは薬種商の主人を使って周囲の集落にお触れを出し、要求に応じなければ『どんがらがん』の一撃をお見舞いするぞと脅し始めたのです。
まあ、大砲組の奴らは一度も撃ったことはないし、撃ち方も忘れてしまっているのですが、今やマリアンは火薬を手に入れ、試射も済ませています(それはそれは恐ろしい威力でありました)。
さあ、この一帯を支配するぞ~。
私、最初に『どんがらがん』を読んだ時にはあまりの馬鹿馬鹿しさに笑い転げてしまったのです。ストーリーは忘れていたのですが、笑いこけた記憶だけは残っており、さあ、また笑うじょ~ん! と再読したのですが、再読だったせいなのか、今回は笑い転げるなんてことはありませんでした(おっかしいなぁ?……そう言えば最初に笑いこけた時、あまりのおかしさのために妻に勧めて読ませたのですが、しらっとした眼で見返されたっけ……実はそれほどでもなかった?)。
まあ、再読ではそこまでのおかしさは感じられなかったのですが、ナンセンス炸裂な話ではありますよ。
本書にはこんなユーモラスな(時に人種差別などに対する批判も織り交ぜた)作品が収録されています。う~む……デイヴィッドスンは異色作家なのだろうなぁ。
今回もそうだったのですが、デイヴィッドスンの作品ってちょっと読みにくいというか、集中しないと意識が散漫に流れてしまう感があるのです。自然とのめり込むという感じが希薄なんですが(作品はそこまで引っ張ってくれないので、自分から入らないと……という読みにくさがあるかも)、入っちゃうとすごいなぁとも感じることがあります。
私イチオシの『エステルハージ博士の事件簿』もそうで、なんかいい感じはするんだけれど何これ? というのが初読時の印象で(読めてなかったんですよね)、その後、気になって二読、三読してようやくこれは良いわ~と感じるようになったのです。
不思議な作家だわ。
読了時間メーター
■■■ 普通(1~2日あれば読める)
久しぶりだから再読してレビュー書きますかね、ということで再読なのです。
しかし、デイヴィッドスンって作風が広いですよねぇ。私のイチオシは『エステルハージ博士の事件簿』なのですが、本書に収録されている作品はまた違った雰囲気で、概ねユーモラスな作品ばかりなのです。
読者は、デイヴィッドスンのカラーがちょっとつかみにくいかもしれませんねえ。
それじゃ、どんな作品なのか、収録作品から何作かご紹介しましょう。
〇 ゴーレム
老夫婦の家に突然ゴーレムが現れます。奥さんは「あの人、顔色悪いしどこか具合でも悪いんじゃない?」と夫に話しかけると、夫も「まるでゴーレムみたいな歩き方だ」などと言います(いや、ゴーレムなんすよ)。
ゴーレムは、「自分は人間ではない。私が何者かを知れば、お前たちの肉は溶け、骨から剥がれ落ちるだろう」などと一生懸命脅すのですが、老夫婦は聞く耳を持ちません。自分たちだけで勝手におしゃべりしてゴーレムをガン無視です。
ゴーレムはなおもあれこれ脅すのですが、まったく取り合ってもらえず、奥さんから「あなた、この国では人が話している最中に口をはさんだりしないの!」とたしなめられてしまいます。
ようやく夫がこいつはゴーレムなのか? と気付くと陶芸を学んでいる息子からもらった粘土を持ち出し……。
カワイソスなゴーレムがいじましい一編。
〇 さもなくば海は牡蠣でいっぱいに
ある自転車店でのお話です。オスカーとフォードが共同経営しているのですが、フォードは異変に気付いてしまいます。きっかけはフォードが丹精込めてチューンしていた赤い自転車を、二人が喧嘩した時に腹立ちの余りめちゃんこにぶっ壊しちゃったことなんですけどね。
その自転車、勝手に再生しちゃったのです。「こ、これは……」。
そう言えば、オスカーは必要な時には安全ピンが見つからないと言っていたけど、「おい、ちょっとそこの引き出しを開けてみろよ。」そこにはごっそりと安全ピンが入っていたのです。「いや、そこは見たはずなんだが……。」
はたまた、オスカーはハンガーってすぐに溜まって一杯になるとも言っていたけれど、今やハンガーは一本も見つかりません。
フォードはあることに気付くのです。この世界には奇妙な奴らが潜んでいる。安全ピンは増殖し、それがハンガーに変化するのだ。だからある時には安全ピンはありふれた物なのに、その後姿を消し、ハンガーが溢れかえるのだ! 自己増殖するんだ! 赤い自転車だって同じ事だ! 何者かが擬態しているんだ!
なんですってぇ?
ヒューゴ賞受賞作であります。
〇 どんがらがん
中世風の物語です。『どんがらがん』と呼ばれる巨大な大砲を引っ張ってさまよう大砲組という奴らがいました。人々は『どんがらがん』を恐れており、大砲組が現れると要求されるままに食べ物などを差し出していたのです。
「どんがらがーん!」
大砲組の奴らはこんな掛け声と共に諸国を巡り、人々を脅かしていたのです。しかし……この大砲組の奴らってちょっと頭が足りないのでは?
これに気付いたカラナス国からやって来たマリアンは、どんがらがんに近付き、じっくりと観察し始めます。大砲組の頭領モグは、「どけ! 去ね! のどかっきるぞ!」と脅し、手下たちもマリアンを取り囲み口々に脅し始めるのです。しかしマリアンは知らん顔。その内脅すのに飽きたのか、大砲組の面々は囲みを解き、好き勝手なことを始めます。
さすがにモグだけはその場にとどまるのですが、マリアンはぱっと飛び上がるとモグの頭に飛び蹴りをぱこーんとぶちかましたのです。
うぐぐ……。伸びていたモグは起き上がると「のど、かっきるぞ」と頑張るのですが、再びぱこーん!
こうしてモグ以下大砲組はマリアンの手下になってしまったのです(だって、言う事きかないと頭をどやされるからぁ)。
大砲組を配下に収めたマリアンは、『どんがらがん』の指南書も手に入れ、書かれていた通りの火薬を薬種商で脅し取り、ついでに主人も配下に収め戦略的高地を目指します。
「どんがらがーん!」
大砲組はマリアンに言われるまま『どんがらがん』を運び上げます。そして、マリアンは薬種商の主人を使って周囲の集落にお触れを出し、要求に応じなければ『どんがらがん』の一撃をお見舞いするぞと脅し始めたのです。
まあ、大砲組の奴らは一度も撃ったことはないし、撃ち方も忘れてしまっているのですが、今やマリアンは火薬を手に入れ、試射も済ませています(それはそれは恐ろしい威力でありました)。
さあ、この一帯を支配するぞ~。
私、最初に『どんがらがん』を読んだ時にはあまりの馬鹿馬鹿しさに笑い転げてしまったのです。ストーリーは忘れていたのですが、笑いこけた記憶だけは残っており、さあ、また笑うじょ~ん! と再読したのですが、再読だったせいなのか、今回は笑い転げるなんてことはありませんでした(おっかしいなぁ?……そう言えば最初に笑いこけた時、あまりのおかしさのために妻に勧めて読ませたのですが、しらっとした眼で見返されたっけ……実はそれほどでもなかった?)。
まあ、再読ではそこまでのおかしさは感じられなかったのですが、ナンセンス炸裂な話ではありますよ。
本書にはこんなユーモラスな(時に人種差別などに対する批判も織り交ぜた)作品が収録されています。う~む……デイヴィッドスンは異色作家なのだろうなぁ。
今回もそうだったのですが、デイヴィッドスンの作品ってちょっと読みにくいというか、集中しないと意識が散漫に流れてしまう感があるのです。自然とのめり込むという感じが希薄なんですが(作品はそこまで引っ張ってくれないので、自分から入らないと……という読みにくさがあるかも)、入っちゃうとすごいなぁとも感じることがあります。
私イチオシの『エステルハージ博士の事件簿』もそうで、なんかいい感じはするんだけれど何これ? というのが初読時の印象で(読めてなかったんですよね)、その後、気になって二読、三読してようやくこれは良いわ~と感じるようになったのです。
不思議な作家だわ。
読了時間メーター
■■■ 普通(1~2日あれば読める)
お気に入り度:







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幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!
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- 出版社:河出書房新社
- ページ数:428
- ISBN:9784309621876
- 発売日:2005年10月26日
- 価格:1995円
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