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紅い芥子粒
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こんな魔術はかんたんです。ただし、欲を捨てなければなりません。
大正九年(1920)一月、『赤い鳥』に発表された児童向けの作品です。

インド人マティラ・ミスラは、大森の町はずれ、竹やぶに囲まれた小さな西洋館に住んでいました。
ミスラ君は、インド独立運動の闘士で、若い魔術師でもあります。
”私”は、ある友人の紹介でミスラ君と知り合い、政治や経済の話をするようになりました。

ある時雨の降る晩、”私”は、ミスラ君をたずねます。
初めて魔術を見せてもらうためでした。

呼び鈴を押すと、背の低いおばあさんが出てきました。
その人の案内で、”私”はミスラ君の部屋に通されます。
黒い肌。大きな目。柔らかな口髭。ミスラ君は、”私”を歓迎してくれました。

ミスラ君の部屋は、質素な西洋間でした。
まん中にテーブルが一つ、壁際に本棚が一つ、窓の前に机が一つ。あとは、椅子が二つあるだけ。
テーブルには、糸目があらわになった赤い花模様のテーブル掛け。

”私”は、椅子に腰かけミスラ君にすすめられて、葉巻に火をつけます。
いよいよ魔術の始まりです。
ミスラ君は、片手をあげて、”私”の目の前に、三角形のようなものを描きました。

ミスラ君は、テーブル掛けの花の模様を手で取りだしました。
ただの模様の花が、麝香の香りがする赤い花に変わっています。
次に、テーブルの上のランプが、ものすごい勢いでくるくる回り始めました。
火事になるんじゃないかとハラハラするぐらいに。
書棚の本がかってに飛び出し、コウモリのように飛び回り、また書棚の元の位置にぴたりと収まるという魔術も見せてくれました。

あっけにとられている”私”に、ミスラ君は、いいます。
「こんな魔術はかんたんです。あなたにもできますよ。なんなら教えてあげましょう。ただし、それには欲を捨てなければなりません」

さて、”私”は、魔術を習うことができたでしょうか?

        

※マティラ・ミスラという魔術師は、谷崎潤一郎が創作した人物です。
大正六年発表の「ハッサン・カンの妖術」という小説の中に生きています。
住所は同じ大森山王、キャラはちょっとちがうかな。
どちらのミスラ君もジャラジャラ金貨は大好きなようですが。


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紅い芥子粒
紅い芥子粒 さん本が好き!1級(書評数:560 件)

読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

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